第12話【彼の話】彼の語り(人怖/心霊)

 じゃ、最後に僕の話を聞いてください。


(補足:やりました!彼の声です!いつもの明るいトーンでは無いですが、この声は私の知っている彼の物です!嬉しい!長い間テープ起こしをしていた甲斐がありました!この話から、彼が今いる場所がわかるかも知れません)


 僕や皆さんの住んでいるこのアパートには、13番目の部屋があるのを知っていますか?

 今皆さんは、このアパートは一階に四部屋ずつ、三階建ての建物なのに、部屋がもう1つあるわけが無いと思ったでしょう。残念ながらその正体は地下室や物置小屋でした、なんてオチでもありません。


 この部屋には、今このアパートに住んでいる12名が揃っていますね。でも本当は、13番目の部屋にいる住人もここに来ているんです。

 僕は今から、その13番目の住人の話をします。


 半年ほど前のことです。僕は有る女性と大学のサークルで出会いました。彼女とは初対面でしたが、信じられないくらい話が合いました。音楽系のサークルでしたが、好きなベーシストの話や、二人とも作曲をするということで意気投合しました。

 でもその頃から、僕は誰かに監視されている、こっそり跡をつけられているような気配を感じるようになりました。大学に行くときは勿論、日常的な買い物や、深夜の散歩。突発的な外出の時も必ず誰かが僕の後ろにいて、何をするか、何を買うかをじっと見つめてきている気がしていました。


 そんな不気味な感覚を忘れたくて、ある日サークルの友達、もちろん仲のいい彼女も含めて一緒に車で出かけた時のことです。僕が、最近誰かに追い回されていて気がめいっているという話をしていた時、彼女はこう言ったんです。

「だから最近模様替えとかして、気分転換してたんだ」

 僕は、誰にも部屋の模様替えの事を話したことは有りません。なのに彼女は僕が部屋の中で何をしていたか知っていたんです。その時気が付きました。


 ストーカーは彼女だったんです。


 僕は途中でドライブを抜け出し、急いで家に帰りました。

 でももう手遅れでした。正体がバレたから、やけくそになったんでしょうか。どうやって僕より早くドライブから帰ってきたかはわかりませんが、アパートの廊下には既に彼女がいました。

 彼女は全身真っ黒で、手足が異様に長い影のような姿に見た目を変えていました。僕が近づいても何もしゃべらず、ただゆらゆらと揺れているだけです。でも、僕にはわかります。これは彼女だ。僕のストーカーだ!


 それから僕は家から出なくなりました。ドアについている小窓から廊下を覗くと、いつも彼女がゆらゆら揺れながらこちらを見ています。目も口も鼻も無い、ただ真っ黒な姿で僕を監視しているんです。

 スマホにも彼女から時々メッセージが来ることがありました。どうやら彼女は僕の部屋の前に居るだけでなく、同時に大学にも通っていてサークル活動もしているようです。どういうトリックがあるかはわかりませんが、他の人に聞いても、彼女は大学に来ていると言っていました。


 でも、僕の部屋の前には彼女が立っています。ずっと見ているから間違いありません。彼女は僕のアパートの廊下にいるんです。

 警察にも電話しました。ですがお巡りさんが家のドアを開けようとするので、そんなことをしたら彼女が部屋に入ってきてしまうと思い、結局誤報だったと言って帰ってもらいました。その時も黒い影はずっと廊下に居ました。


 僕はどうにか部屋を脱出しようと試みました。しかし、窓から外を覗いても道の反対側に影が立っていました。

 僕の部屋はここ、302号室です。床下には潜れないから、天井裏から建物の反対側に行けないかと思いました。

 トイレの天井にある換気扇メンテナンス用の小さい扉を開けました。下から見ると、何らかの配管が通っていましたが、身体をねじ込めば何とか隣の部屋くらいには行けそうです。

 僕は天井によじ登りました。扉の奥に頭を突っ込むと、そこにいた彼女と目が合いました。ただ配管があってかなり狭かったので、部屋の外にいる彼女とは異なり、今目の前にいる彼女は子供のような大きさでした。身体も真っ黒な影のままでしたが、この彼女にはしっかり目がついていました。人間の目。彼女の目が、僕をじっと見ていました。


 つまり、僕がどんなに侵入を阻んでも、彼女は既に僕の部屋の上、13番目の部屋に住んでいたんです。

 彼女はそこでずっと暮らしていたんでしょう。そして、引っ越してきた僕の生活を監視し、僕の趣味や好物を理解し、偶然を装って僕と接触し、会話をしていたんでしょう。一瞬でも騙された自分が馬鹿馬鹿しい。


 でも、そこで負ける僕ではありません。僕はある作戦を立てました。彼女に監視されるくらいなら、逆に今廊下や外、屋根裏や大学に通っている彼女を一か所に集めよう。そして、彼女がストーカーである証拠を集めて、警察に突き出してやろう。

 そして、彼女を出迎えるにはこのアパートの住人が勢ぞろいするのが望ましい。なぜなら、彼女もまたこのアパートの13人目の住人だからです。


 僕は適当な「怪談会」という架空のイベントを作り上げ、彼女を呼び出すためSNSでメッセージを送りました。















 

 お前、怪談会に来ないって言ったよな。黒いお前は全部ここに揃ってるぞ。いつものお前はどこにいるんだ。

 おい、こっちは気づいてんだよ。皆だってわかってるよなぁ?


【ドタドタという、大人数が足踏みするような音】


 なんでそんなところにいるんだよ?今からお前んち、行くからな。



(補足:ごめんなさい、ここからはテープ音声の文字起こしじゃなくて、今私が置かれている状況を書きますね。


 いつもはヘッドホンをして音声を聞きながら文字起こしをしています。今日もそうしてたんですが、あまりにひどい彼の話にショックを受け、休憩がてらヘッドホンを外したんです。


 そうしたら、今、どんどんと私の家のドアが外れそうになるほどの勢いで叩かれています。カーテンを閉めた窓の向こうからは、窓をひっかくようなカリカリカリという音が聞こえます。天井からは、まるで上の階の住人が走り回っているような、バタバタバタという振動音がします。

 これ、警察に電話した方がいいですかね?これだけ音が大きいと、誰かが通報してくれますか?


 とても不安です)

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