第7話【自動車教習所のビデオ】Gさんの語り(心霊)

 辰野くんが自動車免許取るのに教習所に通ってたときにあった話です。


(補足:彼ではない。男性。これといって特徴が無いので年齢がわからないけど、30代くらい?男の人の声って年齢がわかりにくい!7人目なので仮にGさんとしておく)


 自動車教習所って、実際に事故が起きた場所の映像見せるじゃないですか。最初のうちは「こえー」と思って見てるんですけど、何回も見せられてると飽きちゃうような、あのビデオです。

 辰野くんも最初は、教習所の座学の授業、しっかり受けてたらしいんですけど、やっぱりだんだん飽きてきて。講義のビデオ再生中は車の運転とは全然違うこと考えてたんですって。

 でも寝ちゃいけないから、頑張ってモニターだけは眺めてた。

 また同じような事故の映像見せられて。ただその映像が少し凝ってて、事故が起きるのは全部同じ交差点なのに、全部別の事故の映像なんですね。車がフロントからガードレールに突っ込んでたり、トラックの車輪に自転車が巻き込まれたり。

 うわー本当に事故が多い交差点なんだなーと思って見てた。

 でも何回も何回も見てるうちに、妙なことに気がついたんです。

 映像はどう見ても実際の事故。警察官の人がヘルメットして、わざとらしく轢かれる感じじゃない。もちろん死体とか怪我人は写らないけど、鑑識の人とか交通整理するお巡りさんは映像に写ってる。恐らく車の運転手さんだと思われる人は、顔にモザイクがかかってる。

 そんな騒然とした現場の映像に、いつも白いカーディガンを着た女性が写り込んでるんです。

 事故車からは少し離れてますけど、明らかに事故現場の近くにいる。そういえば前回にもいたな…いや今回もいる!全然違う事故の映像なのに…!

 警察の人でも無いんですよ。普通の白いカーディガン着たどこにでもいるような女性なので。映像ごとに正面向いてたり、背中だけ写ってたり、横向きだったりと向きとかは違うんですけど、いつも同じ服装で事故現場にいる。

 野次馬にしても現場に近すぎるし、警察が気にしてる感じもしないし…。そもそもこんな短い、30秒くらいの映像で毎回写り込むかなぁ…って、辰野くん的にはかなり気持ち悪い印象があったと。


 教習所は座学以外にも実際に運転する授業があるので、仮免に合格した辰野くんが路上教習で、教官と一緒に町中を走ってた時のこと。やっぱり教習所内とは全然違う緊張感があるなぁと思ってたら、結構大きな交差点が近づいてきた。別にビデオで見てた白いカーディガンの女がいる交差点じゃ無いけど、やっぱり交差点は事故が置きやすいし、慎重に運転して。

 その時教官がこう言ったらしいんです。

「ビデオの事故映像も見てるよね。まわりを良く見るのも大切だけど、それに気を取られ過ぎないようにね。大切なのは道路のほうだからね」

 なんかその言葉がひっかかって。今まで散々「いろんなものに気を配れ」って言ってきたのに「気を取られるな」ってちょっと変なアドバイスだなと。ビデオにもなんか変なの写ってたし…。

 ちょっと気になったので、教習所まで帰ってきて車止めた後に、辰野くん先生に聞いたらしいんですよね。

「あの、ここで見せる事故が良く起こる交差点の映像、なんかちょっと変ですよね?あれってやっぱり実際に起きた事故の映像じゃないんですか?」

「ん?何が?」

「いや、あの、いつもおんなじ人が映像に写りこんでるじゃないですか、あの白いカーディガンの女の人」

 そうしたら教官「あっ!」って顔して

「君は見えるタイプなんだね」

 って。


 見える?何が?って顔してたら教官がね。

「いや、あの映像ね、気にならない人は白いカーディガンの女に全く気がつかないんだよ。といっても、ほとんどの人は気がつかない。一年に一人か、二人もいたら多いほう。僕も久しぶりに会ったよ」

「え?何か、仕掛けがあるんですか?」

「いやね、見えた人にはこれ話すことになってるから言うけど。町中、特に都心走ってるとね、君みたいなタイプは不思議なものを絶対に見ると思う。でもね、それは君以外には見えてない可能性が極めて高いの。だからね、そういう変なのに惑わされず、まわりの様子を見て、慎重に運転してね。車の流れを意識して。何かあっても殆どが自損事故になっちゃうからさ」

「え、見えないものってなんですか?」

「僕も見えないんだけどさ、なんか、良く事故が起きる交差点とかにいるんだって。で、君みたいな人を驚かせて事故を起こさせるらしいの。警察からはそれ以上何も言われてないけど、多分幽霊だよねそれ」


 辰野くん、今までそんなの見たこと無いと思ってたから怖くなっちゃって。

 白いカーディガンの女もしっかり見えてたから、お化けだとは微塵も思わなかったと。

「一番イヤなのはさ、今まで人だと思ってたものが幽霊で、無意識に見えてたとしたら、俺ひょっとしたら挨拶とかしてたかも知れなくて、それが一番怖い」って辰野くん言ってました。

 今でも辰野くんは普通に車も運転してますけど、まだ無事故らしいです。ただたまに交通事故を道中見かけると、「ひょっとしてここにもいるのかなぁ…」って考えちゃうみたいですよ。


(補足:辰野さん、もしこの投稿を見てましたら、この話の話者が誰なのかご連絡頂けますと幸いです。


ちょっと変なんですよね。彼の録音マイクって、バンド演奏録音用にステレオ収録できるんですよ。だから語り手の座ってる位置によって、左右で音量バランスが変わるはずなんです。でも、この録音データ、ずっと音の出所が変わらないんですよね。まるで一人がずっと語り続けてるみたいな)


【少し間があり、次の話へ】

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