第10話 陥落、ウル要塞

バイマンとの死闘で瀕死となり気を失っていたカトゥーロでしたが、数分後どうにか意識を取り戻します。

彼が目を覚ました時、周囲の要塞の床はヒビと瓦礫の山でありそれはもう酷い有り様で、見ただけでも相当な激戦が繰り広げられたことは想像に難くありません。

どうにか勝利はしたようですが他の仲間の安否が気になりだします。


「カルロス…ドミニコ…ヴィクターも…そ、そうだ。他の皆は?無事なのか?」


他の部下の安否を不安がるカトゥーロでしたが、その心配は杞憂に終わります。


「ケイン・ヴァーリモント、無事です!」


「ロレッタ・ケインズ、異常ありません!」


「メリッサ・トーレス、何とか生きてます!」


「な、何とか生きてるよ…死ぬかと思った」


なんと次々に彼の部下が集結したのです。


「お前ら生きてたのか…良かったよ、本当に良かったぜっ…」


カトゥーロは皆の無事を確認すると嬉しくてつい涙目になりました。


「この戦いで勝ったら当面楽になるなんて思って無理なんてさせちまった…済まねえ。詫びって訳じゃねえが王都に帰ったら改めて戦勝パーティー開くよ。勿論主役はお前らな。それから褒賞と長期休暇も申請しておくよ。お前ら最高!」


「マジっすかマディア閣下!エンディルニアのピザおかわりいっすか!?」


「フカヒレスープとクランベリーのホールケーキもオナシャス!」


「おういいぜ!たんまり食ってくれ。腹一杯になるくれーは確保してっからよ!」


「いやっほぉぉう!マディア閣下万歳!!」


「イエーイ!クランベリー万歳…じゃなかったカトゥーロ様ばんざ~い!」


戦勝したとはいえ、真っ先に食べ物の事を考えるロレッタとメリッサにカルロスは半ば呆れ返っています。


「あいつら食い意地張り過ぎだろ…」


「しかし、まさかこんな難攻不落すぎる要塞を攻略できちまうだなんてな…」


ディーナはカトゥーロに申し訳無さそうな顔で近づき頭を下げます。


「カトゥーロ将軍…いえ、マディア閣下」


「お、どうしたよ?ディーナ准尉」


「内心、貴方様の手腕に関して疑問を抱いておりました。あらぬ疑念を抱いてしまい閣下にご無礼を働きました事、深くお詫び申し上げます。必要とあらば如何様な罰でもお受けいたします」


「何いってんだよ。俺は微塵も気にしてねえって!むしろ詫びを入れてえのは俺の方だ。まさかあの鬼があそこまで化け物過ぎるとは流石に俺でもわからなかったぜ。見込みが甘すぎたよ」


カトゥーロの発言を聞いたカルロスはある事が気になりだします。


「そういや親父、そのバイマンって奴なんだけど居るとしたら一階だよな?」


「…そうだな、早速一階に向かうぞ」


カトゥーロもカルロス同様、嫌な予感がし出していました。


「ディーナ、ケイン。悪いが最上階の見張りを任されてくれ。バイマンの安否を確認してくる、俺たちが帰ってくるまでの間でいい」


「御意」


「はっ!」


最上階の確保をディーナとケインに任せるとカトゥーロもカルロスも一階へと降りていきます。


そして一階に辿り着いたカトゥーロらはその様子を見て悪態をつきました。


「一階の下にも穴…?しかも下水道!クソッ!逃げられたか…」


「親父、でも流石にいくらあの化け物でもこんな高さから落ちて生きてるってそりゃねえんじゃねえの?」


「あの鬼を甘く見過ぎだぜ、カルロス。奴はその程度じゃ死にはしねえ。幸いまだ遠くへは行ってねえだろう、伝書鳩を飛ばして大至急援軍も要請して、ここの下町をくまなく探索するぞ!」


カトゥーロは早速伝書鳩を使って王都へ、ウル要塞下町の探索のため援軍を要請します。


一時間ほどでダニエル・ケインズ中将の率いる援軍が到着しました。


「ケインズ中将…すまねえ」


「気にしてくれるな。話は聞かせてもらった、マディア中将。ウル要塞攻略、見事だった。安心してくれ、あの化け物の確保には我々も協力しよう。総員、捜索開始!!」



ダニエル・ケインズ中将―


イスヴァルド王国の古株の一人で、カトゥーロ・マディアの高等士官学校の先輩です。

高等士官学校はケインズ大将が創立した私立学校で、卒業できれば将官の地位は約束されたも同然でしたが、過酷極まるプログラムの為退学者は勿論、死人が出る事も珍しくありませんでした。

そんな中で共に生き残った卒業生は固い絆で結ばれ、カトゥーロとダニエルもまた例外ではありませんでした。

ダニエル・ケインズはアーサー大将の次男でしたが、父親同様強者礼賛的な考えこそ有していたとはいえ、父親と違い傲慢で偏屈はなく、丁寧な口調の割には意外にもフランクで人望に厚い人物であるため、カトゥーロからもそれなりに信頼されています。



ケインズ中将の号令と共に一気にウル要塞下町で捜索が開始されます。


カトゥーロも最上階の仲間や兵舎にいる者たちに連絡して、最上階の確保を任せているディーナとケイン以外の精鋭兵らをバイマンの捜索に駆り出しました。

要塞下町の町民からの抵抗に苦しめられながらも、バイマンを捜索すること数十分後…


「…!!居たぞ、バイマンだ!!討ち取れ!!」


なんとケインズ中将が要塞の最上階から落ちて下水の汚物塗れになり瀕死になったバイマンが下町の路地裏でヨタヨタ歩いていた所を発見したのでした。

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