第12話 宝天商会

話が決まると早速カトゥーロが報酬の話を切り出します。


「報酬はいくらで引き受けてくれるんだ?」


「この程度の損傷でしたら15000ギーズで十分可能ですな」


イスヴァルド王国の通貨はギーズとヒューズで、1ギーズは大体パンが半斤買える程度の価値です。

そして1ギーズは100ヒューズと等価とされており、1ヒューズ青銅貨・10ヒューズ銅貨・1ギーズ白銅貨・10ギーズ紙幣・50ギーズ紙幣・100ギーズ紙幣、そして1000ギーズ金貨があります。

このギーズとヒューズはイスヴァルド王国の著名な銀行家ロナルド・S・ギーズ、アレン・A・ヒューズという人物から取られています。

 参考文献「著:ハワード・R・ウォーカー 子供でも分かるイスヴァルド王国経済史 エコノミー・レポート 大陸歴422年 p.26」


「15000か…じゃあ頭金で3000、修繕に成功したら残り全額に加えて出来次第では更に5000出す。それでいいかい?」


「おぉう、増額とは太っ腹ですなぁ!宝天商会、大いに尽力いたしますぞ!」


「よし、契約成立だな。これが頭金ね」


早速カトゥーロは頭金として商人に1000ギーズ金貨を3枚渡します。

修繕が成功した暁には報酬が増額されることを聞いた商人は嬉しそうにしています。

早速商人は必要な材料を紙に書き、腕利きの大工を伝書鳩を使って呼び寄せました。

数時間ほどで商人が紙に書いた材料が調達され、筋骨隆々の大工が5人やってきます。

カトゥーロ一行は大工の人数の少なさに驚いていました。


「…偉く少ない人数だな。本当に大丈夫か?」


「問題ございませんぞ、何卒御信じ下され」


「分かった。食料と寝床はこちらで提供しよう」


「ささ、皆様方。そうと決まれば早速修繕に取り掛かりますぞ♪」


「押忍!!」


大工たちの返事と共に商人は彼らにテキパキと指示を出し始めます。

カトゥーロ一行はその修繕のペースにも驚かされます。


「随分と早いな…」


「相当手慣れていますね。これほどの熟練の職人をどう呼び寄せたのでしょうか」


数時間ほどもすると要塞の下層から中層までの損傷は完全に修繕が完了してしまいました。

その様子を見て商人は当日の作業を切り上げる事にしました。


「本日はここまでといたしましょう。皆様、お疲れ様です」


「押忍!!あざっした!!」


修繕の出来に半信半疑だったカトゥーロ一行は下層の損傷していた箇所を少し小突いてみましたが、なんと完全に直っていました。


「急ごしらえだもんだから小細工でもしてるのかと思いきや完璧に直ってら。こりゃすげぇわ」


「流石にこれは信じざるを得ませんな…」


当日の作業が終わると、カトゥーロは最上階に居たケインとディーナも呼んで、商人と大工達と共にウル要塞地下1階の大食堂で皆に豪華な食事を振舞います。

商人と大工達もエンディルニアのピザやフカヒレスープなどの高級料理の美味しさに舌鼓を打ちます。


「大工さんも大概大食いだな…まあそんだけ体力使うからしゃーないか。おぉっと…」


カルロスはいきなり自分の料理に手を出して食べようとしたロレッタから自分の取り分を守りました。


「おいファザコン野郎。食う気ねーならエンディルニアのピザ寄越せやコラ」


「手癖わりーな、相変わらず!人の料理に手出ししてんじゃねーよデブ!」


「あぁん!?やんのかテメェ!」


「こらこら…」


食って掛かるロレッタを宥めるドミニコでしたが、彼女の食い意地には彼自身あきれています。

そんな彼らの様子を見た商人と大工達は困惑していました。


そんなこんなで翌日以降も大工達は修繕に取り掛かり、何と最初から数えて3日で要塞の修繕を終わらせてしまいました。

一行は念のため損傷箇所の確認もしましたが、修繕の出来は完璧でした。


「4日どころか3日で終わっちまった…いや~お前さん方すげーわ。約束通り12000と追加分5000支払うよ」


「ありがたき幸せ!」


カトゥーロは金貨17枚の入った袋を彼女に渡しました。

商人と大工達は中身を確認して金貨を数えてご満悦の様子です。

更にこの商人を気に入ったカトゥーロは彼女にある提案を持ち掛けます。


「そうだ。お前さん、この国の御用商人になる気はないか?色々と優遇措置が受けられるぜ」


「御用商人…ですかな?」


「色々な物を調達してもらう代わりに、我が軍に軍隊の派遣を依頼したり、国政にある程度融通を効かせられるようになる。どうよ?」


「ふむ…悪くないですな。かしこまりました、今後とも宝天商会は御用商人として将軍閣下をお助けいたしたく存じます」


「よっしゃ!交渉成立だな!よろしく頼むぜ!」


早速カトゥーロは手紙を書いて、伝書鳩で王都に宝天商会を御用商人として迎え入れ、イスヴァルド王国の国籍も与えるよう国王に進言します。


「数日くらいで返答が来るだろうから、返答は追って伝えるよ。それまでは国内でなら王都でもここでも自由に過ごしていいぜ」


「は!有難き幸せ」


そう言うと商人は大工達と共に去っていきました。


「さーて…俺らもそろそろ要塞に戻るか。当面はゆーっくりしてもらっていいぜお前ら!本当によく頑張ったな!!」


一行から拍手喝采が沸きあがり、各々がウル要塞の下町でしばしの休息を楽しむのでした。

それから数日後、カトゥーロはウル要塞の病室で王国から宝天商会を御用商人として認める旨の手紙を受け取りました。


「おお~来た来た。さて、あのお嬢ちゃんに送るとするか」

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