第13話 戦況報告

翌日、ウル要塞近辺の診療所の病室で手紙と国籍状を受け取ったカトゥーロはにんまりします。


「宝天商会を本日付で御用商人と認定する。又、認定に伴いかの者達にイスヴァルド国籍を贈与する イスヴァルド王国第一王子 ジェームズ・イスヴァルド」


早速受け取った手紙と国籍状を纏め、伝書鳩で宝天商会に送付します。


「失礼いたします、閣下。マーリン・イスヴァルド、帰還いたしました」


カトゥーロが手紙と国籍状を送付したその時、外でマーリン・イスヴァルドと名乗る者が診療所を訪ねてきました。


―マーリン・イスヴァルド

彼はイスヴァルド王国の第三王子です。カトゥーロを尊敬しており、カルロスとは士官学校の同期で親友同士です。

調子のいい性格の快男児で人望もある好漢です。現在は実の姉であり第一王女であるローラ・イスヴァルド准将の補佐をしています。


「入ってくれ」


そう言うと、マーリン王子は病室に入ってきました。


「閣下、今回の戦況の取り纏めが終了いたしましたので、ご報告いたします」


「早速聞かせてくれ」


「はっ!」


取りまとめた戦況を、マーリンは淡々と述べていきます。今回の戦費や戦果、今回の勝利に伴う王国での動向や特別支援金など…それらの事項を述べました。


「以上になります。今回の支援金ですが…合計で6252万6354ギーズとなります」


「マジっすか!?年度軍事予算の5パー近い額じゃねえか!!とんでもねえ額だなおい」


「だってあのウル要塞が陥落したんすよ?そりゃこんだけ集まりますって!王都なんて今その話で持ち切り状態っすよ!これはもう勝ったも同然じゃないですかね!?」


「いや、オライオン帝国はそんなに軟じゃねえよ。ガチで戦いがきつくなんのは間違いなくこっからだ。バイマンも取り逃がしちまった事だし、あの人食い鬼以外にも化け物がうじゃうじゃいんだぜ」


「…閣下でも厳しいですか?」


「…最善の努力はしますよ、王子。勝てるかどうかは分からんが俺だって簡単に負けてつもりはありませんので」


「俺、閣下のこと信じてますから!!…最後に、ケインズ大将から書簡が届いております。小官はこれにて失礼いたします」


そう言うとマーリンは病室から去っていきました。


「あのクソジジイ、相変わらず気色悪ぃ真似しやがるぜ…」



―ウル要塞を攻略する前日のガラディア公国の王城


ガラディア公国の大公オスカル7世は、アーサー・D・ケインズから書簡を受け取りました。概ね以下のような内容でした。


「貴国との親交を深めたく存じます。お近づきの証に我が娘をオスカル7世のご子息の嫁にお送りいたしますゆえ、是非ともご一考頂きたい」


書簡を読んだオスカル7世はエドヴァルド・ユーディライネン大将やリベラート・ラヴィナーレ中将に相談します。すると、ラヴィナーレ中将がまず口を開きました。


「陛下。この同盟、受けるべきと存じます」


「ラヴィナーレ中将、理由を説明せよ」


「このような書簡を送ったという事はイスヴァルドはウル要塞の攻略に相当な自信があるという事です。成功すれば分け前だけでも相当な見返りが見込めるかと」


「ユーディライネン大将はどう思う」


「陛下。私めも賛同いたします。イスヴァルドの力が及ばざれば同盟を切ってよし、そうでなければ同盟の利益を甘受する。そう悪い話でもございませぬ」


「…分かった。では同盟の席を確保せよ」


後日、ウル要塞が陥落したという知らせを聞いたガラディア公国の国民らはラヴィナーレ中将の慧眼を称賛しました。



イスヴァルド王国がウル要塞で勝利したという知らせはイスヴァルド王国内だけでなく、あっという間にオーロラ大陸中に広がりました。


―オライオン帝国の王城


ウル要塞陥落の知らせは帝国に激震を走らせました。

ハインリッヒ3世は当時の大将軍であったノイマン・フォン・メンデルスゾーンに事の説明を求めました。

ウル要塞を守衛していたバイマンは辞表を提出し死刑を課すことを乞いました。

しかし大将軍の説明を聞いたハインリッヒ3世はバイマンに過失なしとして咎めず、療養し次の戦いに備えるよう命じました。

この様子を見たクラウスは内心悔しがっていました。


(あの爺めが…バイマンを罰していれば人望を失して僕が貴様の喉を掻っ切るのも遠くなかった物を。しかもこれでバイマンに大恩を売るとは、相も変わらず抜け目ない男だ…だが、収穫はあった)


―黄牙連邦政府


黄牙連邦政府総裁のレルム・デリンジャーは黄牙連邦の大将軍オスカー・ディングレイから事の経過を聞いていました。

知らせを聞いたレルム総裁は平静を保とうとはしていましたが、明らかにうろたえているようでした。

レルム総裁は何としてでもカトゥーロを抹殺せよ、とディングレイ大将に指示を出します。

ディングレイ大将は本日付で中将になったマルティム・ド・オーギュスタンにカトゥーロの抹殺を命じますが、オーギュスタン中将は全く乗り気ではありませんでした。


(あのハゲ野郎、俺を捨て駒にするために中将の位を寄越したのか。クソッ…)


彼は通達を受け取った際、妻子に遺書を書きました。



各国の動きは明らかに活発化していました。カトゥーロの予見通り今後戦いはますます熾烈を極めていきます。

そう、ウル要塞陥落は終わりではなく始まりに過ぎなかったのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る