第3話 オライオン帝国

カトゥーロによるウル要塞攻略が決まった一日前、

オライオン帝国では無敗だったクラウス中将が痛み分けに持ち込まれたという話で持ち切りになっていました。


「あのクラウス中将が破れなかったとはな…」

「あの小僧、ざまあみろってんだ。親の威光を借りて威張りやがって」

「しかし、奴ですら倒せないとなるとどうすればいいのか…」

「やはりイスヴァルド王国とは休戦すべきなのだろうか?」


そんな話が王城を中心に飛び交っていました。


さて、オライオン帝国は大将軍ノイマン・メンデルスゾーンを中心として三人の中将が主に軍を率いています。


バイマン・ヨアヒム・ボルツ中将―

2mを優に超える巨漢で力のバイマンと呼ばれ敵に対しては非常に残忍で猟奇的な性格で、

捕らえた敵兵をバラバラにして食す事もあるため、敵味方問わず非常に恐れられています。

その力は帝国はもとよりオーロラ大陸においても最強と目されており、なんと巨大な雄の成獣の象を鉄拳一発で殺すほど。

少年時代から偶にオライオン帝国の郊外に出没する虎や熊を素手で捕まえては殴り殺していました。

元は下級貴族の生まれですが、当時上級貴族だったエヴァに見初められ、数々の武勲を打ち立て出世街道を邁進している男です。

少し前にウル要塞の守護を任され、赴任しています。


ナンナ・フォン・ゲーリング中将―

彼女も元は下級貴族の出身で、21年前にバルドール王子に見初められ結婚しましたが、1年後、子を身籠る前にバルドール王子が病死してしまいました。

その悲しみを忘れる為、また彼の愛した祖国を護る為、女を捨て軍人として祖国を護る道を選びました。

武勇のナンナと呼ばれ、ガラディア公国とのアマラ河の戦いでは重傷を負いながらも一人で5000以上もの兵士を殺害するほどの鬼神ぶりを見せます。

腕をもがれ、全身が銃弾塗れになってなお、剣を振るう姿は敵からすると恐怖の対象でしかありませんでした。

それほどの実力者でありながら、非常に謙虚で部下や仲間には慈しみ深い性格であることから、彼女を慕う者は少なくありません。


そして今、話の中心となっている、


クラウス・ヴァッサーマン中将―

彼は元は平民の子でしたが、俳優だった父親が事故で死んでから、

残された彼の母がオライオンの皇帝のハインリッヒ3世に見初められ、なんと皇帝は無理矢理婚礼の儀を執り行いました。

周囲からは当然非難の目を向けられますが、ハインリッヒ3世はそんなことなど何とも思いません。

その日から彼はハインリッヒ3世に復讐すべく、帝国軍人となってのし上がり皇帝の首を掻き切ってやるべく、出世しようと決意したのです。

三人の中将の中でも最も強い将軍として名を馳せる名将で、戦いにおいては常に勝利を続け、

あれよあれよという間に最年少で中将となり、「常勝無敗の風神」と言わしめるほどにまでなりました。

その影響力はすさまじく、もはや皇帝ですら彼を無視した政策は取れないほどでした。


そんなクラウスが精鋭を率いてなお勝てなかった事は帝国にとっては信じがたい事でした。


「…災難だったな、ヴァッサーマン将軍。相手があのマディアだったとは…率いる精鋭兵も数千ほど巻き添えになって死んだそうではないか」

「陛下の御意にお応えできず、面目次第もございません」

「気にすることはない。天災が起きたのではやむを得まい、そなたはよく戦った」


そういうとハインリッヒ3世は向き直り、黙り込むクラウスを後にして、その場にいた将軍や幕僚に語りかけます。


「さて、今回の戦いで我が国は疲弊したが、ボルツ将軍が守るウル要塞がある限り、イスヴァルドの連中とて容易には攻め込めん」

「……」

「そこで、だ。今後しばらくは国力の回復に努めようと思う。今まで各地に遠征したが、そろそろ潮時だ。諸侯らとはその為に今後の方針について建設的な議論を行いたい」


皇帝がそういうと、彼らは一斉に議論を始めました。




一日後、オライオン帝国のウル要塞では…



グジャッ!!グジャッ!!グジャッ!!ビシャアアアアアアッ!!!


一階の闘技場から異様な音を聞いた兵士達が何事かと驚いて駆けつけてきました。

そこには闘技場から出た2mを優に超す大男…バイマン中将が居ました。


「閣下!一体何が!?」

「ああ、腕が鈍ってたんで、ゾウを二頭ほどバラしてたんだよ」

「え…?ゾウ…ですか?」

「んじゃ、そろそろ俺様は戻るわ」


そういうとバイマン中将は上の階へと戻っていきました。

半信半疑だった一人の兵士が闘技場へ降りると…


「うわあああああああああああああああ!!!!」

「ど、どうした?いったい何が…ぎゃあああああ!!!」


兵士たちはその場の凄惨すぎる光景に恐怖して腰を抜かしました。

闘技場を降りるとそこには何と象らしき肉と骨の塊があちこちに散らばっていたのです。

辺り一帯も血みどろになっており、異臭が立ち込めていました。


一方、自室に戻ったバイマン中将はオライオン帝国とイスヴァルド王国との戦いについて報告を聞いていました。


「あの小僧が痛み分けになったか、面白え。なら、この俺様が奴を八つ裂きにすれば次期大将は俺様のモノになるってわけだ。腕が鳴るぜ」

「閣下。その件ですが実は帝都から書状が届いております」

「あぁん?」

「帝都に異変あり。至急戻られたし…とのことだそうです。如何いたしましょうか」


バイマン中将は少し息をついて何か考え事をしているように見えましたが何かしら閃いたのか、部下に耳打ちしました。

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