第24話 女神の宝玉

大陸歴444年6月、黄牙城内で起こった反乱の殲滅を図ろうとするも反乱の正体が帝国軍の仕業だったことを知り、不利を悟ったレルムは側近の精鋭兵数千を引き連れて退却しようとしましたが、そこを王国軍に阻まれてしまいます。こうして、黄牙城の戦いは幕を開けたのです。

すると、ここでカトゥーロの姿を見たレルムが切り札を使い…


「『女神の宝玉』よ!我らに敵を討ち掃う力を与えたまえ!!」


次の瞬間、『女神の宝玉』が強烈な光を放ちました。その強烈な光に連邦軍の精鋭兵達も動揺します。


「な、なんだ!?」


「光が…!!」


そして光が収まると、なんと辺り一帯から王国軍の兵たちが目に見えて減っていたのです。

光が収まり、後方に居たカトゥーロは異変に気が付きました。


「ヴィクター…?ヴィクター!!返事をしろーーーーッ!!ヴィクタアアアアア!!!」


返答はありませんでした。

先ほどまで先陣を率いていたのはなんとカトゥーロに変装したヴィクターだったのでした。

先ほどの光にヴィクターが消されたと認識し、カトゥーロは悲しみに打ち震えます。


「(ヴィクター…!!)突撃だぁぁぁ!!敵は少数だ!!一気に殲滅しろーーーッ!!!」


号令と共に一気に王国軍が連邦軍本隊目掛けて一気に突撃を始めます。

カトゥーロの声を遠巻きに聴いたレルムは動揺しました。


「(しまった…!奴ではなかったというのか!?くそう!!またしても謀られたかッ…!!)怯むな!!迎え撃てえええ!!」



―『女神の宝玉』

黄牙連邦では建国当初から人体実験が盛んに行われていました。

ところが大陸歴333年に大飢饉が発生した際に人体実験に使う人間が足りない状況に陥ります。

そこで当時の黄牙連邦の総裁であったマグナ・ヨーゼフ・カーロッソは、莫大な予算をつぎ込み魔化学研究所の研究員たちに命じて人体実験に使う人造人間の研究に着手させました。

研究に着手してから5年、彼女たちはマグナの期待通りに人造人間の製造に成功します。

魔化学研究所の研究員たちは人造人間を酷使し、人体切断や薬物投与、更には数々の拷問を行うなど非道な人体実験を繰り返しました。

そんな哀れな人造人間たちから高純度の魔力の血液を抽出して出来あがった物が『女神の宝玉』でした。

この『女神の宝玉』は恐るべき効果を有しており、一たび光を放てば周囲の人間を別の場所へ転移させたり、死んだ人間を一時的に生き返らせたり、使った人間の身体を超強化するなどその力は驚異的というほかありません。

ところが、この時の『女神の宝玉』は一度使うと使用者が死亡したり、深刻な後遺症が発生するなどでとても実用に耐えるものではありませんでした。

そのため、黄牙連邦内でも禁忌の研究として封印されることになったのです。


 参考文献「著:ニュクス・R・ヴァイオレット 黄牙連邦科学史 大黄堂 大陸歴338年 p.25~26」



そして、レルムの使う『女神の宝玉』は元々の物に更に改良を加えたものでした。

彼は自国民の非難を免れるためにこの非道な研究を自国ではなくオライオン帝国に極秘で行わせていたのです。

こうしてレルムは改良を加えた『女神の宝玉』をまんまと手に入れたのでした。

ところがこの宝玉もまた欠点をいくつか有しています。

まず一度使用すると一定時間は使用できなくなる事、そして選ばれる効果は自力で指定できず順番が決まっている事です。

狙った効果を連続で出せないとはいえ、順番を理解しているレルムにとっては利用はお手の物。

更に連邦軍の中でもレルム直下の部隊は数は少数なれど選りすぐりの最精鋭部隊であり、ヴィクターの散華に怒り狂うイスヴァルド王国軍でも苦戦を強いられています。

そうこうして連邦軍が時間稼ぎをしている間に、『女神の宝玉』が再度光を放ち始めます。

すると、ただでさえ強い精鋭兵がとんでもない怪力で王国軍に襲い掛かり、ガンガン王国兵を蹴散らしていきます。

前線で連邦軍の精鋭兵相手にすら無双していたランディですら、あっさり吹っ飛ばされてしまいます。


「のわッ…!な、なんや…こいつら!!なんちゅうパワーや…」


「兄貴!!大丈夫か!?」


「急激に強うなりおったわ…なんやあれ」


「恐らくはレルムのだろう…が同じ効果じゃねえのか。妙だな」


「…言われてみれば確かにそうやな。何か条件がありそうや」


そんな事を話していると、再度精鋭兵の強さが元に戻ります。


「怯むな!敵は弱体化している!!蹴散らかせえええッ!!」


カトゥーロは敵が弱体化している隙に一気に攻勢を仕掛けて仕留めようとします。

カルロスやマーリン、ディーナたちも奮戦して連邦軍の精鋭兵に苦戦しつつも徐々に数を減らしていきます。


「「「うおおおおおおッ!!!アームストロング連隊長の敵討ちだあああああッ!!!」」」


ドミニコ率いる癒術隊も後方で王国兵たちの回復支援を行い、王国軍を勢いづけます。

ところが、しばらくするとまたしてもレルムの持つ『女神の宝玉』が強烈に光り出し…

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