第21話 決戦前夜

カトゥーロ率いる王国軍は頑強に抵抗したマルティム率いる連邦軍に苦しめられながらもどうにか打ち破りましたが、ある程度損耗を被ってしまいます。しかし、カトゥーロはこの損耗をある程度予期していました。


――数日前、黄牙連邦へ侵攻する前日に王国に増援を要請する手紙を出したのち、ローラ王女を要塞内の自室に呼び…


「お呼びでしょうか」


「ローラ・イスヴァルド准将、貴官に二つ指示を出す。一つ目は明日より我が軍は侵攻を開始するが、私も時期を見計らって黄牙連邦領に向かう。要塞を留守にしている間、ウル要塞の守衛の指揮を貴官に一任したい。今回は直接指揮を行い黄牙連邦にトドメを刺す。連邦の上層部を取り逃がすと後々禍根になる」


「閣下、私も共に向かいたく存じます」


「いや、要塞の防衛は貴官以外には任せられん。それから…」


「それから?」


「二つ目の指示は捕獲した連邦軍の兵士達の処遇について。今回の戦いで敵側の投降兵も出てくるだろうが、彼らの保護を任せたい。敵将についても同様だ。差し当たり反抗的でない者を我が軍で登用したい」


「敵兵ならまだしも敵将もですか?」


「説得次第では味方になるはずだ」


「…物資についてはどうしますか?」


「それについては御用商人に任せてある。多くても投降兵は1万を超えることはないだろう。その範囲でなら物資が不足することもあるまい。頼むぞ」


「…分かりました。このローラ・イスヴァルド、命に代えてもご命令を全う致します」


――



連邦軍を見事打ち破った王国軍は崩落した簡易要塞跡に停留し、ドミニコ中佐率いる治療隊がカトゥーロ率いる王国軍の手当をしています。


「よくやったわね、みんな。もうみんな立派な一人前だわ」


「へっ、俺はこの国をしょって立つ漢だぜ?こんくらいでくたばんねえよ」


「しかし、ウル要塞に負けるとも劣らない程の激戦でしたね…ドミニコ中佐」


「そうね、カルロスちゃん」


カルロスとマーリン、そしてドミニコが話している最中、腕と足に包帯を巻いたロレッタがやってきました。


「飯ぃ!!飯はどこじゃい!!血が足りんわい!!!」


「どうぞ!」


「おっほぉ~!頂きっ!!…てあんた誰?」


ここでロレッタはエンディルニアのピザを寄越した何者かに気づきます。

そこには瓶底眼鏡を掛けたショートヘアの女性軍人が居ました。


「初めまして。私、今回の遠征で従軍することになりましたエリナ・ウォーカーと言います。王国軍の補給を担当させていただいてます。どうぞよろしくお願いいたしますね」


「宜しくな!俺はマーリン。戦線は俺達が何とかするから、バックはしっかり頼むぜ、姉ちゃん」


「よろしくお願いいたします、エリナさん。俺はカルロス・マディアと言います。マーリンと同じく前衛担当です」


「同じくロレッタ・ケインズ。ロレッタでいいよ。あんた結構出来るじゃん、これからもよろしくね」


「光栄でございます!今後とも尽力させていただきます!」


カルロスたちがそんな会話をしていると後ろから大軍がやってきました。

カルロスは警戒して武器を構えます。


「何だ…?敵襲か?」


「いえ、これは…第四師団…」


そう、カトゥーロが事前に要請した王国からの援軍が到着したのでした。

別の場所で怪我の治療を行っていたカトゥーロはその陣頭に立つ人物を確認すると嬉しそうな表情で会いに行きます。


「おお!よう頑張ったなカトゥーロ!ワシら第四師団が来たからには安心せえ。クソ連邦もこれで終いやろ」


「ランディの兄貴!来てくれたのか…って兄貴が来ちまって王国の守りは大丈夫なのか?」


ランディ・アシュヴァートン少将―


イスヴァルド王国の古株の一人で、カトゥーロ・マディアの高等士官学校の先輩です。

2m近い巨躯を持ち、イスヴァルド一とも言われるほどの武術の達人でもあります。

短気で大雑把でけんかっ早い性格ではありますが、カトゥーロにとっては先輩にあたる人物であり、かつ武術を指南した恩人でもあることから階級が逆転した今においてもカトゥーロからは尊敬されています。

彼の率いる第四師団はイスヴァルド王国でも最強の精鋭とされ、その精鋭ぶりは1人で10人分の戦闘能力を有するほどであり、他国からも目を付けられています。



「大丈夫や、ローラちゃんならどないかしてくれるやろ。これから城攻め落とすねんやろ?派手にブチかましたろうや!」


「いや…もっと徹底した方法を取ろうと思う。このまま普通に攻め落とすんじゃ流石に分が悪いだろ?何せ黄牙城はガッチガチの防壁に囲まれてるからな」


「……どないやるんや?」


ランディがそう聞くとカトゥーロは黄牙連邦の地図を広げました。

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