第20話 弱者への制裁

マルティムは目と鼻から血を流していましたが激痛に耐え、何処からか包帯を出すと自分の頭に一気にグルグル巻きにしました。更に何かしら閃いたのか魔導兵器を投げ捨て大剣を抜刀してデミックスにこう言います。


「デミックス連隊長、残りの部隊を率いて今から退散しろ。俺は本隊で王国軍に突撃をブチかます。運が良ければカトゥーロを討ち取れるかもしれん。ブチかましたその瞬間が合図だ、再度全軍で突撃するんだ」


「将軍、しかし…」


「俺の事は気にするな。今は勝つことだけ考えるんだ、これは命令だ」


「…分かりました。ご武運を」


デミックスは頭から血を流すマルティムの身を案じながらも、命令に対して否とは言えず他の兵から騎馬を借りると、


「総員!退避開始!!」


と号令を掛けます。号令と共に連邦軍はゆっくりと退避を始めました。

連邦軍が退避を始めたのを見た王国軍は追撃をしようとしますが、これが罠であることに感づいていたカトゥーロは、


「追撃止め!!防御態勢に入れ!!」


と号令を掛けます。ところが、防御態勢が完成する寸前に突如連邦軍の本隊が突撃してきました。

連邦軍の本隊は精鋭揃いな事もあり、またしても王国軍に被害が出てしまいます。次々に王国軍の護衛兵を破ったマルティムがカトゥーロの元に辿り着くと、すかさず大剣をカトゥーロ目掛けて振り下ろします。


「うぐっ…」


先ほどの襲撃で負傷したカトゥーロは斧で防ごうとするも咄嗟には反応できず、傷を負います。

そして次の瞬間、デミックスが率いる連邦軍が突撃してきました。

ところが、その場から一気に立ち去ろうとしたマルティムは突如馬から落馬してしまいます。


「グアッ!!あぐうううぅ…」


なんとカトゥーロは攻撃を防ごうとしただけではなく、馬をも斧で攻撃していたのです。

マルティムはつんのめるように頭から転げ落ちました。

そのまま起き上がろうとするも、もはや力が入らず意識が遠のいていきます。


(オルフィナ…リル…)


意識を失う寸前、彼は最愛の妻と娘のことが頭によぎります。

そのままマルティムは気を失ったのでした。

カトゥーロはマルティムが気絶したことを知るとすぐさま兵士達に対して、


「怯むな!敵の大将は死んだ!残りは烏合の衆だ!!守りを崩さず持久戦に持ち込め!!」


すかさず次の号令を出しました。カトゥーロの号令で敵の大将が死んだことを知った王国軍の兵たちは戦意を取り戻し、再度勢いづきます。デミックス率いる連邦軍の本隊は奮戦するも次々に討ち取られ、もはや継戦が不可能なほどの損耗を受けるとデミックス連隊長の率いる連邦軍は退却を始めます。


「クソッ…退却!!黄牙城へ退却だーっ!!」


こうして、王国軍はついに連邦軍を打ち破ったのでした。

苦戦しながらも連邦軍に勝利したことに王国軍は更に沸き立ちました。


「「「うおおおお!!イスヴァルド王国万歳!!」」」

「「「カトゥーロ将軍万歳!!」」」


一先ず勝利したことにカトゥーロは安堵します。そこへカルロスとロレッタも駆け付けます。


「親父!!怪我…大丈夫か?」


「将軍!ご無事ですか?」


「ああ、傷は負ったがまだ戦える…ってお前らも怪我負ってるじゃねえか。さっさと手当てしな」


そんな会話をしているとカルロスはマルティムに気づきます。


(敵将…?ならこいつを…!)


カルロスはマルティムを殺そうとしましたが、カトゥーロは静止します。


「待て!そいつに手は出すな…王国に護送してくれ」


「親父!?正気か?」


「将軍!敵国の将ですよ!?人質にでもするつもりですか?」


「…いいから言うとおりにするんだ。王国へは俺が話をつけてある」


「…御意」


「…わかったよ」


カルロスとロレッタはいけ好かない表情をしながらも渋々馬を用意して気絶したマルティムを馬に乗せ、王国へ護送させました。


「よし!連邦軍も打ち破ったことだし、今日はここに留まるぞ。野営用意!!」



―一方その頃、黄牙連邦政府で黄牙連邦軍の敗戦をデミックス連隊長から聞いたレルム総裁はというと…


「そうか、敵将はカトゥーロ…間違いないんだな?」


「はい。間違いありません」


「そうか…よく分かった」


そういうや否やレルムは剣を抜き、デミックスを一刀で首を撥ねたのでした。


「貴様がいかに無能で無価値な存在であるかが、なぁ?」


デミックスは音もなく倒れ伏します。レルムは配下の兵に捨ててくるよう命じました。そして、


「聞いたか。敵将はあのカトゥーロだそうだ…奴の軍をこの城に誘い込み、そして奴を討ち取る。昔この国から追い出したこのわしをさぞ憎んでいよう、必ずやここへ来るはず。ディングレイ大将、早速準備にかかれ。奴を罠に嵌め八つ裂きにして晒しものにする準備を」


「かしこまりました。このオスカー・ディングレイ、仰せの通りにいたしまするぞ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る