第5話 潜入、ウル要塞

カトゥーロが宴を開いた翌日の朝、オライオン要塞にはカトゥーロが練った計画書がバイマン中将の元に渡っていました。

先日オライオンから高級ワインを調達した高齢の男はオライオンのスパイだったのです。


「バイマン様、お目当ての物はこちらにて調達いたしました」

「ほう…でかした。これで奴も終わりだな」

「それでは?」

「ああ、報酬か。ほら、持ってけよ」

「今後とも御贔屓に…」


バイマン中将から金貨の袋を受け取ると、満足そうに高齢の男はどこへともなく消えていきました。


「おい」

「はっ」

「今すぐに要塞を全面封鎖しろ、今日中に鼠一匹出れねえようにするんだ。奴は今日にでも来る、急げ!」

「御意!」


計画書を受け取ったバイマン中将は急いで要塞を封鎖するよう指示しました。

既にカトゥーロ一行が要塞の中に侵入していた事を彼は知りませんでしたが、侵入されていることも想定して要塞を封鎖したのです。

彼もまた非凡な才能の持ち主、そう簡単には勝利を譲りません。


一方カトゥーロ一行は既に兵士たちに化けてまんまと侵入に成功し、最上階にまで辿り着いてしまっていました。

事の経緯は昨晩にさかのぼります。


昨晩、カルロスらに寝室に運ばれたカトゥーロは何と酔っ払って寝ているふりをしていたのでした。

しばらくするとそこへカトゥーロの寝室を訪れた一人の女戦士が、起こしに来ました。


「カトゥーロ将軍、あの爺の馬車に細工しておいたぞ」

「グレートだぜディーナ。んじゃあ準備にかかろうぜ」

「本当に成功するんだろうな?」

「いいから俺に任せとけって。たんまり樽も用意してあったんだよな?」

「ああ、確かに見かけたぞ」

「よし!んじゃあ馬車ん中の樽に入るぞ。前もって準備してあったオライオンの軍服も着ていくように他の部下に伝えに行こうぜ」

「わかった」


そういうとカトゥーロとディーナと呼ばれた女戦士はカルロスらの元に向かいました。カルロスらはいきなり起こされたことについて疑問に思いながらも将軍の命令だと知ると素直に従い、馬車に向かうと空樽の中に次々に入り込みます。

イスヴァルドの関所で出国の手続きを終えて馬車に戻った高齢の男はそんなことなどつゆ知らず、ワインの入っていた大量の樽を数えています。


「40、41、42。これで全部か…」


そうつぶやくと彼はウル要塞へ馬車を出したのでした。

その中の樽にカトゥーロ一行が紛れ込んでいるとも知らずに…。


そして翌日の明け方にオライオン帝国から借りた馬車を引き連れてウル要塞に戻りました。それを門番の兵士が出迎えます。


「何奴!」

「お出迎えですか。実はカトゥーロ将軍から重要な書面を手に入れましてね。作戦計画書です」

「何?あのカトゥーロから!?よし、通れ」

「わかりました」


そう言うと高齢の男は馬車を引き連れて要塞内部に入ります。

そして馬車を地下の倉庫に置いて意気揚々と上へと登っていきます。

高齢の男が立ち去ったのを確認すると、オライオン帝国の兵士に変装したカトゥーロ一行は樽から出てきて、


「よし、こっから上の階まで登るぞ」


そう言うと、要塞の上の階へと登っていきました。バイマン直属の帝国兵士たちに気づかれないように慎重に…。

そしてついにカトゥーロ一行はバイマンのいる最上階に辿り着いたのです。


「とちるなよ。慌てず速やかにな」

「うるせーなファザコン」

「あっさり辿り着いてしまった…流石は閣下」

「しっ!油断は禁物よ。これからが本番なんだから気合いを入れなさいな」


部下たちはそんな会話をひそひそ声でしています。

彼らのそんな会話を他所にカトゥーロはこれからどうするかを考えています。

その直後、バイマンから要塞の封鎖の号令がかかったのでした。

その際にカトゥーロは、ヴィクターにこう指示を出しました。


「ヴィクター。もしかしたら途中で下の敵兵が気づくかもしれん。念のため、兵士が来ないよう見張っててくれ。合図したら封鎖を辞めてこっちに来てくれ」

「御意」


そう言うと、ヴィクターは彼の率いる精鋭部隊とともに誰も来れないように階段を封鎖したのでした。


(さて…最上階に来たはいいが随分と兵士がいるな。流石はオライオン三傑、ある程度は想定済みってわけね。下の兵士はヴィクターに任せたが、タイムリミットは要塞の外の戸締りが終わって兵士共が戻ってくるまで、てところだな。相当キツイ戦いになりそうだぜ…)


そんな事をカトゥーロが考えていると、バイマンはカトゥーロの罠にハマった事に気づきました。なんと彼は不敵な笑みを浮かべていたのです。


「ほう…カトゥーロの野郎、俺様と直接張り合おうってわけか。面白え」


次の瞬間、彼の大声が響き渡ります。


「総員、戦闘準備!敵軍は今この最上階にいる!一人も生かして帰すなぁぁ!!」


その大声を聞いた瞬間、バレたことを悟ったカトゥーロ一行は変装を解き、戦闘態勢に入りました。そして、このバイマンの不敵な笑みの意味をカトゥーロ一行は嫌というほど思い知ることになるのです…。

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