第11話 二人の約束
―――翌朝。
ちょっとはしゃぎ過ぎたと、反省するラウル。
「
水面に映った自分のニヤケた顔を手でかき乱す。
レイが眠そうな目をこすりながら、ふらふらと姿を見せた。
「お、おはよう……」
「あ、ああ、おはよう」
やはり、少しよそよそしい。
ちょっと気まずい二人。
(司教さま……だからなあ)
「ラウルゥ―――」
「今度、どさくさに紛れて、変な事をしたら許さない」
完全に軽蔑の眼差しだ。
(そういう自分も調子に乗っていたじゃないか……)
(司教さまの
◇◆◇◆ 二人の約束
二人は小さなテーブルを囲み、ハーブティーをすすっていた。
ラウルが
アーモンド風味の焼いたビスクも添える。
「ラウルもだいぶ、
「司教さまに、
「しかし魔法って、すごく便利だね」
「何でもできるのか」
レイは、カップから唇を離す。
「魔法は万能じゃあないよぉ」
と言葉の語尾を
「使う人の持って生まれた適性というか資質によって違うんだ」
「その人の生活環境や受けた教育、努力や体験によっても個人差が出るんだよ」
「何より、使う目的によって色々さ」
「ふうーん」ラウルは腕を組む。
何か思うところがある様に目を閉じた。
「魔法の根元はね―――」
「火の精霊、水の精霊、大地の精霊、風の精霊」
「四大精霊と言われる精霊の区分けがあってね」
「その人の持っていいる魔法適性によって、精霊が力を貸してくれるんだ」
「稀に光の精霊……闇の精霊なんかを操つる魔法使いがいるらしいけど……」
と目を細め眉を下げた彼女は、
「そうか……で、レイはどの魔法属性なの?」
さらにレイの瞳が輝いた。
「私は、全ての属性を持ってる」
と少し自慢気に指を立てた。
が、すぐにその指を引っ込めた。
「らしいけどね……今、操れるのは大地の精霊だけだよ」
「はああ。そういうことか」
と感心しつつ。相づちを打つ。
「どこか剣術にも似てるね」
「剣術にも体得していく段階があるからね……」
「レイのおかげで、腕も治ったし」
「僕ももう一度、剣術の修行をやってみるよ」
身振り手振りで剣技の動作を真似るラウルにレイの顔が微笑ましく緩む。
◇
「そういえば……」
「ここに来る途中に闘った、あの魔法使い……」
「石の
「あれは、レイと同じ大地の精霊を使った魔法なのか?」
ドンッ、といきなりレイがテーブルを叩いた。
「魔法はっ―――魔法はそんな事には使わない」
肩を上げ怒るレイ。
「魔法はね。人々の為に、人が幸せになる為に使うんだ!」
「精霊たちが、そんな事を望むはずがないじゃないかっ!」
ずずっとレイの真剣な顔が目の前に近づいてきた。
「剣も、そうだよね!」
「ラウル! ―――人々の為に剣を振るう。それが剣士だよね!」
「う、うん……」
強引に同意を求めてくる、レイに言葉が詰まって返事をする。
(そんなこと、考えた事もなかったよ……)
「ん、んんん」ラウルは咳払いをして、背筋を伸ばした。
「レイは、きっと良い司教さまになれると思うよ」
「人々を幸せにする、良い司教さまに」
彼女は「えへへっ」と少し照れてうつむいた。
「そうだ!」
「僕の体が完全に回復したら、二人で旅をしよう」
「二人で世界を観てまわろうよ―――」
「世界には僕たちが見た事もない―――語り尽くせない話しが沢山、僕たちを待ってる」
「なっ!。なっ、いいだろ?」
「僕と一緒に―――」
ラウルは両手を広げ、素敵なモノを見つけた様に輝く瞳で、レイに迫る。
「……」
「うん……」
レイは垂れた前髪を、耳横に
顔をそむけたレイの少し赤くなった横顔。
ラウルは
「君には……かなわないな……」
と小さくつぶやいた。
◇◆◇◆
―――その夜。
家の庭先でレイが一人、輝く月を見上げていた。
少し欠けた月は、もうすぐ満月の夜を迎える。
「ラウル。ありがとう……」
「私は、もっと色々な景色を見たい……」
「私も、あなたの様に自由に色々な世界を観てみたい……」
「でも……私には……もう
「ああぁ……」
「こんなに……こんなにも胸が苦しいのなら……」
「あなたに……あなたに出会わなければよかった」
レイは、胸元で両手を合わせた。
そして静かに目を閉じた。
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