第15話 青い星の約束①

 目の前には赤いローブの魔法使いが立っていた。

 ローブのフードを深く覆った魔法使いの顔は見えない。


「君は……レイだろ?」

「レイなんだろ?」


 突き立つ土杭をかいくぐり、ラウルは赤いローブの魔法使いに接近する。


 ローブから覗いた魔法使いの口元が、何かを言っている様に動く……。


 そして、ほほに一筋の涙がこぼれ落ちた。

「バカ……」


 ラウルは走り寄った。

 

「レイ―――」

「ずっと会いたかったんだ」


「なぜ? こんなところに君がいるんだ―――」


 ラウルが手を差し伸べようとした瞬間。

「こないでぇ!」

「こっちに来ないでぇ!」


 彼女は声をあげた。

 彼女の悲痛な叫び声が静かな森に響いた。


 ◇


 目の前の彼女が手をかざす―――。

 

 突然、風が渦を巻き砂塵が舞い上がった。

 舞い上がる風は木の葉を巻き込み、飛礫つぶてとなって空間を切る細い音を立ててラウルを襲う。

 

 ラウルは思わず腕で顔を護る―――。

 

「や、止めてくれ―――レイ……」


 地面を踏んでいたラウルの足がグズリッと沈んだ。

 足元の土が絡み付き、足が動かせなくなった。

 

「何故なのっ―――!」

騎士の国あなたたちはっ―――!」


 彼女が腰に差していた短剣を抜いた。

 短刀を両手で構えたまま、近づいて来る。


 泣きながら剣先をラウルの胸元に突きつけた。


魔法の国わたしたちは、ずっとずっと平和な国だったぁ!」

「なぜなのっ? 何故、あなたたちは戦いを仕掛けるの……」


 目の前の彼女は、そでで何度も何度も顔をぬぐった。


「私たちは闘う―――」

魔法のわたしたち国を護る為に。人々の生活を護るの為に」


 ◇◇◇


「レイ……」

 ラウルが手を伸ばし、彼女に近づこうと一歩踏み出した。

 彼女の握った短剣が、ふれた剣先が衣服を突き、ラウルの胸元が赤く濡れていく。

 

 彼女思わず退いた。一歩、二歩……。


 ―――途切れ途切れに声を出し、魔法の言葉を口にする……。

  

 ラウルの足元に光る文字が浮かびあがった。

 文字が走り魔法陣が形成されていく―――。


 その光る魔法陣は、見えない壁となってラウルを囲み込んだ。


「こっちに来ないでぇ!」


「…………」 

「ドンッ、ドンッ」

 ラウルは、その見ない壁を叩く。

 その壁は堅固な障壁となって、ラウルの腕を弾いた。


「ガンッ」「ガンッ」

「ガンッ」「ガンッ」


 ラウルは自分を閉じ込める壁を、拳で打ち叩いた。  


「ガンッ」「ガンッ」

「ガンッ」「ガンッ」


 拳に血が滲む……。


「ガンッ」「ガンッ」

「ガンッ」「ガンッ」


「ラウル!―――もうやめて!」

「それ以上やったらっ―――」



「があああぁー」

 ラウルは渾身の力を拳に込め、大きく拳を打ちつけた―――。



 魔法陣の壁が―――光の結晶となって砕け散った―――。


「えっ…………」


 ◇


 レイは、驚きで目を丸くする。


「魔法陣が……消滅した……」

「そんな事……」


「人の力で魔法を打ち壊した。そんな事ができるはずが無い……」


 立ちすくむレイの体が強い力で引き寄せられた。

 ―――とても強い力で……。


(…………!)

(命を刻む鼓動が聞こえる……)

(力強くて、温かな腕が、私の肩や背中を抱く……)


(―――重厚で安寧な心地……)


(……これは? 精霊のもつ力の根元だ……)

(今まで、どの種の精霊たちからも感じた事のない、新しい力……)


 レイは、そっと瞼を閉じての声に耳を傾けた……。



「レイ。すまない……」

「すまない……」

「君につらい思いをさせて……」


「今は、それしか言えない……ごめん……」


 また、彼女の目から涙があふれだした。


 ◇◇◇ 


 彼女が「ぐすんっ」と鼻をならす。


「手を出して……」

 ラウルの手を両手で握った。


「また、剣が握れなくなったら、どうするの……」

 彼女はラウルの傷ついた拳を胸元に近づけ、唇を寄せた。


 そして、とても優し気な魔法の言葉を唱える……。


 白銀の光が一つ二つ。

 あふれた白銀の光が、二人の握り合った手を包む様に輝く……。

 

 足元の植物たちが、踊る様に二人を絡めた……。


「…………」

「もう痛いところは無い?」

「ラウルは、ほんとうに無茶をする」


 ◇◇◇


 ラウルは、手に握っていたペンダントを差し出した。


「これは君の大切なペンダントだろ?」


 深い青色の石がはめ込まれた美しいペンダント―――。


「この石が……君の居場所を……教えてくれた……」

 レイはラウルの言葉に首を傾げた。

 その差し出されたペンダントを、不思議そうに摘まみ上げた。

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