第14話 宿敵同士② 再会 

「こりゃあ。ひどいなあ」

「魔法というやつは、こんなに……なるものなのか?」

 ポルトスが、目の前の光景に顔をゆがめた。

 元は草原であっただろう……しかし目の前に広がる景色は、生えた木々は薙倒され地面はめくれ、地中に在ったであろう岩が隆起した光景だ。

 

 ラウルたち一隊は、王国軍を追撃していた敵軍の横合いを突っ切り、反対側の丘まで駆け抜けた。

 突然現れた騎馬隊の奇襲に追撃していた敵軍の統制は混乱し、王国軍の追撃どころではなくなったのだ。

 

 奇襲に成功した、ラウル、ポルトス、リリアスたちの騎馬隊は敵軍の引いた戦場の跡地に馬を歩ませていた。


「ラウルよお」

「いつも冷静なお前が―――らしくないな」


使と、何かあったか?」


 無言で様子を眺めていたラウルにポルトスが声をかけた。


 ラウルは、自分の鎧の胸元をつかみ歯を噛んだ。

魔法使いあいつ、じゃなかった―――」  

「あの森であった、大地を操る魔法使い……」


「あの男は、戦いには出てこないのか―――?」


 ポルトスが眉を下げ、少し呆れた様に肩を小さく上げる。

 両腕を組むと、そっぽを向いて口を開く。


「しかし、噂の『魔法使い』の姿は無かったなぁ」

「どのくらいの魔法ものか、この目で見てみたい……」


「それに、お前の言う魔法使い。俺もそいつと闘ってみたいもんだぜ」


「なあっ」と腕を組んだ姿で背を向ける。


 ◇◆◇◆ 赤い魔法使い


 日が暮れ。ラウルたちの騎馬隊は、戦場近くの森で野営の陣を敷いていた。

 敵の夜襲を警戒し、遊撃隊として身を隠し辺りの様子を覗っていた。


 焚火を囲んだ、ラウル、ポルトス、リリアス、そして副官のカイルは戦況を確認する。

「ご報告します!」

 王国軍の本隊と連絡を取りに向かっていた騎士が、野営の陣に戻って来た。

    

「我が軍の状況は、どうだった?」


「はい。無事に撤退が完了し、山向こうの山地まで兵を退いております」


「そうか……」

「で、被害のほうは?」


「それが……」

 騎士は納得いかない表情で眉をひそめた。


「我が軍の被害は、ほとんどありません……」

「軽傷の者は多くいますが、ほとんどが撤退の時の自損との事」


 焚火を囲んでいた、皆が一斉に驚きの声を上げた。


 ―――リリアスが小枝を折った。

「敵もやってくれる……」


「我が軍の混乱を誘っただけか」

「魔法の国もあなどれませんね」

 

 リリアスは、燃える火に小枝を投げ込むと、舞い上がった火の粉を見つめ、つぶやいた。


「かあああぁー」

「王国軍をなめてやがる―――」


「俺たちなら―――」

「なあっラウル!」


 ラウルが立ち上がる。

 猛るポルトスの肩を押しとどめる様に肩に手を置くと、無言のまま陣幕の外へと出て行った。

 

 三人はラウルの背を無言で見送った。


「なあ、リリアス」

「あいつ……やっぱり、何か様子がおかしいよなぁ」

  

 ◇◇◇ 


 陣幕を出たラウルは、大きく溜息をついた。

 

 空を見上げると、輝く星空が広がっていた。


(今夜は、何て静かな夜なんだ……)

 あの深い森の木々の間から見た、無数の星空を思い出す。


 金色の髪を揺らす、彼女の瞳が目に浮かぶ。

 それほど、日が経ったわけではない……。

 しかし彼女との出会いは、一緒に過ごした短い日々は、まるで夢の様に遠い日に感じる。

(彼女は今頃、まだ熱心に本を読みふけっている最中だろうか……) 


 ラウルが首にかけたペンダントを手に取って見た。

 彼女から渡された、青い石がはめ込まれたペンダント。


(ハッ―――)

 慌ててラウルが辺りを見回した。


 丘の上に人影。

 ラウルたちがいる野営を見下ろす様にローブを羽織った人影が見えた。

 深くローブをかぶり顔は見えない。


(まさか!)

 ラウルは、馬に飛び乗ると体を反転させる。

 そして全速力で、丘を駆け上がっていった。


 ◇◇◇


 馬が近ずく音に気が付いたのか、ローブを纏った人物は森の中へ走り去っていく。

 月の明かりに照らされ、赤いローブのはためきが見えた。


 ラウルは、大声で呼ぶ。

「待ってくれ―――」

「君はっ! 君はっレイじゃないのか―――?」


 赤いローブの人物は、足を止めた。


 その人物は、振り返るとローブを跳ね上げ、その手をラウルに向かって掲げた。


 ググッと足元の大地が揺れる。

 地面が盛り上がり、土杭つちくいが空に伸びる。

 前に駆け出そうとするラウルの行く手を土杭つちくいの壁が遮った。



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