第7話 禁足の森の魔物たち
追手から逃れる為、馬を走らせていたラウルは、ふと奇妙な光景に気づく。
整然と立ち並んだ、大きな岩の群。何かの儀式にも似た風情を感じる。
さらに広がる森の先に見える褐色の赤い岩肌をした巨大な岩山に目を奪われた。
(奇妙で不自然な赤い岩山だな……)
(まるで生き物のように動き出しそうな、そして肌や内臓を圧迫する)
ラウルは馬の手綱を北へ切った。
居ても立っても居られれず、その赤い岩山が見える方角へと駆けていった。
◇
赤い岩山を囲む様に繁る森。
鬱蒼と生い茂った草木や大木が視界を遮る。
一旦この森で追って来る兵士らをやり過ごそうと考えたラウルは、森に立ち入り岩陰に身を隠した。
しかし、今までしつこく後を追って来ていた兵士たちの姿は表れない。
暫く様子を探っていたが、不思議な事に追って来る兵士たちの気配すら全く無くなっていた。
◇◆◇◆ 禁足の森
心の赴くまま、ラウルは赤い岩山を目指し森の中へと足を踏み入れた。
それは、直感に似た何かがラウルの血液の流れを速める。
目の前に見えていた赤い岩山。実際に森に分け入ってみると、暗く深い闇が視界を遮り、感覚を狂わす。太陽の昇る位置から方向を割り出そうとするが、鬱蒼と生い茂った木々に邪魔され役にたたない。
ラウルは森の中を
それより、この背筋がざわつく感じをラウルは稀有した。
肌を刺す嫌な気配が、先ほどから背後に感じる。
無意識のうちに筋肉がこわばり、剣士に危険を知らせている。
腰元の剣を握りなおすと大きく息を吸った。
「ガサリッ」「ガサリッ」と木々を踏み折る音がちかづいて来る。
既に身構えるラウルの目の前に、巨大な生き物が姿を現した。
長い灰色の毛をなびかせた、巨大な狼種。
その
人の倍はある体を支える大きな足が、大地を踏みしめていた。
ラウルは目を見開き、息を飲んだ。
「ル、ルナリスか!」
剣士たちの間では、魔獣と対峙した話しは聞く。
自身、一度手合わせしたいとは思っていたが、しかし自分の初めて対峙する魔獣が、一本角のルナリスか。
背中から首筋にゾクリッとしたものが駆け上がった。
◇◇◇
ラウルは腰の剣をゆっくりと抜き、両手で構えると重心を落とした。
獣のもつ琥珀色に光る鋭く冷たい目が、確実にラウルを
(こいつは……逃げられそうにない……)
大きく息をし、腹に力を溜める。
「本気でいくぞ、かかって来い!」
自分自身に言い聞かせる様に言葉を
―――内なる剣気をめぐらせ、感覚を研ぎ澄ます。
剣の切っ先を睨む敵の鼻先に焦点を当てた。
目の前に寄った一本角のルナリスの足が一瞬止まる―――。
大きな口が開き、目の前の獲物を威嚇する様に鋭い牙を剥いた。
―――巨大な体が一瞬沈む。
力を溜めた後ろ脚が地を蹴った。
ルナリスの体は大きく弧を描き、前足の鋭い爪を剝き出した。
その鋭い爪目で獲物を捉えようと襲いかかる。
ラウルの体は紙一重で爪をかわし、横にすり抜けた。
と同時に剣を大きく横に
―――そのまま、横に回転し体を反転する。
低く構えた体制で、剣先をルナリスに向けた。
「硬い!」
「あの一撃。斬れなかった―――」
大きく息を吐くと、次の呼吸をゆっくりと取り込んだ。
ルナリスは、ゆっくりと振り向くと、抵抗する小さな得物をギロリッと
その巨体が狂ったように迫る。
鋭い牙と巨大な肢体が小さなラウルの体に覆いかぶさった。
ラウルは、相手をかわしながら大きく横に跳ぶ。
服が裂けた。
「うおおおおっ」鋭い剣先を繰り出す。
ルナリスの下腹に血が
わずかながら点々と血の跡が広がっていく。
荒い息を押さえ、剣先をルナリスの急所に狙いを定めようとした。
「ぐふっ」「何い?」
岩にぶつかった様な衝撃が襲う―――。
ルナリスの体当たりが、ラウルの体を跳ね上げた。
「がはっ」
跳ね飛ばされ、転がったラウルの体は、大木の幹に衝突して止まった。
傷みをこらえ、体を起こす……。
横に転がり落ちた剣を拾おうと剣を握る。
が、ヌルリと手が滑った。
剣を握る右腕が真っ赤に染まっている。
「ぐぐぐっ」
ルナリスが、血の匂いに誘われる様に唸り声を上げ近づいて来る。
そして空に向かって雄叫びをあげた。
まるで獲物に勝利したかの様に、高々と声を鳴らした。
「腕一本だっ。それがっどうした!」
ラウルは歯をくいしばると、左手で落ちた剣を握りしめた。
◇◆◇◆ 森の番人
ラウルは、左手で剣を構える。
一本角のルナリスは、ラウルの前を右に左にゆっくりと動き、目も前の獲物の様子をうかがう。
そして、大きく牙を見せた。
その時。
ルナリスは、伸びた触手を避ける様に大きく後ろに飛び退く。
その触手は更に伸び、退ったルナリスを襲う。
その光景にラウルが驚き、後方から伸びた触手を理解しようと探る。
背にした大木が、揺れた。
モゾリッと、その大木が揺た。
その大木は、はまるで生き物の様に触手をしならせる。
「な、何だっ!」
今度は、大木の触手がラウルの体に巻き着いた。
「や、やめろ!」
体でもがくが、
触手がさらに数本。ラウルを包み込む様に巻き付くと、ラウルの体を覆い隠した。
(目が
―――ラウルの視界は、眠る様に暗闇へと消えていった。
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