第25話 気まぐれ精霊王②
「先ずは、お前の攻撃を受けてやる」
「いいか。お前の最大、最高の力量で
「でないと、一瞬で勝負がついてしまう」
精霊王様は指をクイックイッと動かして見せた。
(わかってはいる。最大級にヤバい相手)
ラウルは腰の愛剣をゆっくりと抜いた―――。
◇
剣を両手で握り、腰の位置でえる。
正面の相手は構えすら無用と武威を漂わす。
(隙だらけに見えて、一点の隙も無い)
かけ声と放ち一気に間合いを詰める。
突いた剣先の攻撃から素早く左右に斬り込む。
しかし、精霊王は片手一本。ラウルの剣戟を振り払う。
一瞬の合間をから小さく薙いだ刃が浅く精霊王の胴を斬り払った。
「ほう―――」
精霊王はニヤリと笑う。
「くっ」
表皮に触れた……が、この感覚……。
何かに護られた固い表皮が、つるりと刃を滑べらせ、感触が指に伝る。
(全くダメージが無い……)
「もう終わりかぁ」
「さあっ来いよ。お前の攻撃をもっと出してみろよ」
「俺様を楽しませてみろよ」
◇◇
ラウルは、ゆっくりと大きく深呼吸する。
剣を構えた重心をおとし、ゆっくりとゆっくりと深呼吸を繰り返して酸素を体内に巡らす。
目の前に立つ精霊王の姿の細部を脳裏に伝達する。
そして内なるもう一人の自分に問うた。
荒ぶれる武威が肌に触れ、空気がピリピリと刺激し当たっては流れていく。
騒めく木々の葉擦れの音が静かにゆっくりと消えてゆく。
「兄貴……あにき……あ・に・き……」
―――ゆっくりと。
いつもの鍛錬のように、
光の力を首から上半身へ流す。
足の裏が地面を踏みしめ、獣のごとき脚力が地面を蹴った―――。
体は風に舞う鳥羽のように軽い。
熱く
握る十指の感覚が剣先に同化する。
気勢を発し、煌めく銀刃が長く伸びた―――。
幾十にも重なる斬撃が精霊王を果敢に斬りつける。
ラウルの気勢の咆哮にのって白い残像と紅い残像が再び衝突した。
紅い魔物の残像が揺れ動く―――。
金属どうしが重なり衝突する音。
岩がぶつかり砕ける音。
それらが衝撃の波音となって弾けて散った―――。
木々が破圧に揺れる。
目の前に立つ、精霊王の腕から炎の剣が伸びていた。
揺らめき立ち昇る真紅の炎を纏った禍々しい剣。
炎の剣を頭上から一振り―――。
周りの大木が音を発して砕けて折れた。
「―――その太刀筋。覚えがあるぞ」
「遥か昔―――交えたなっ」
「貴様あぁぁぁっ!」
精霊王の波打つ髪が逆立っていく。
精霊王の燃える剣が森を斬り払う―――。
ラウルはその斬撃を大きく跳んでかわした。
背後の木々が薙倒される。
精霊王の二振り、三振りが森の大木を削っていく。
◇◇◇
空気を振るわす重圧な霊声が響いた。
精霊王の体が宙に浮く。
宙を浮く体に纏う炎がユラリッと揺らぎ立つ。
空気に舞う炎の粒子が花火の様に燃え上り落ちた。
(魔法っ! いや精霊の術か)
ラウルは身構えた。
(精霊王は、ストールが無いと闘えないと言った)
(と言う事は、ストールがあれば闘えると言う事だ)
ラウルは、首に巻いたストールを握りしめた。
(レイっ。僕に精霊の加護を授けてくれ)
瞬間。
炎の玉がラウルを襲う―――。
火の玉がラウルの体に衝突し、火の玉が弾け散った。
細かく散った火の粉は、地面に散乱し消え果てた。
精霊王が無言で
続けざまに、顔ほどの炎がラウルを襲う―――。
ラウルを包んだ炎は、また弾けて散った。
「貴様あぁ。魂ごと消えろ!」
精霊王の背に現れた五つの青い炎が踊る様に絡み合い、ラウルに放たれた。
ラウルの太ももがビクリッと跳ねた。
地面に座りこみ動けぬシドをかばう様に覆いかぶさる。
二人は重なり地面に伏した。
絡み合う青い炎が、ラウルたちを包む―――。
渦の様に絡んで立ち昇る業炎が数十秒。
ラウルたちを包むみ膨らんだ青い炎は破裂し辺りの木々に飛び散った。
◇◆◇◆
辺りは静まりかえっていた。
砕けて散った残火だけがジリジリと音を発て、焼けた木々の匂いが漂う。
地面にうずくまるラウルの体が宙に浮いた。
懐に抱いていたシドの体が地面に転げ落ちた。
ダラリと腕と頭を垂らし、宙に浮くラウル。
精霊王は腕を組みながら目を細めた。
ラウルの体が精霊王の前に運ばれる。
精霊王は右手の指し伸ばし、ラウルの首を鷲づかみにする。
「や、やめろっ!」辛うじて意識の残るシドが嗚咽の様な叫びをあげた。
精霊王が気絶したラウルを目で探る。
「貴様……身も魂も……燃え尽きていない」
「ふんっ。その
ラウルの首に巻かれたストールに目をやる。
精霊王はラウルの腰帯に目を向ける。
「やめろ。やめてくれぇ」
シドが精霊王に飛びかかり、足元に絡み付く。
シドの奥襟を掴んだ精霊王のは、シドを片腕で掴み上げた。
「お前もこの男と一緒に行きたいのか?」
とシドを見据える。
「兄貴は俺たちの恩人だ」
「兄貴の代わりにっ俺を糧にすればいい!」
「あんた精霊だろ」
「一人で十分だろ、おれを生贄にしろよ」
「確かにお前の言う通りだ」
「俺にとって、精霊を操れぬ人間は不要なのだが……」
精霊王の切れ長な目が開き、瞳の奥で何かの企みが微かに立ち昇った。
シドを掴む腕に力を込めた。
すると足元に突然、一陣の風が舞う。
体が軽くなりフワリと体が浮かんだ。
一瞬。ビュンッと目の前の景色が横に流れた―――。
その場の三人は風のように姿を消していた。
森は何事もなかった様に静寂に包まれた。
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