第19話 白い光

「白い光……全てを滅ぼす光だ」

 

 不気味に笑う男の背後から、屈強な男たちの亡霊が湯気のように立ち上っている。


「なくしてしまおう、こんな世界」

 

 白い光が弾け、反射的に目を閉じる。世界が闇色に犯されて、そして何も聞こえなくなった。


 ─────────



「────夢·····」


 カーテンが揺れて、白い朝日がまばらに差し込む。背筋がゾクリとした。


 ソファで寝たせいか身体のあちこちが痛い。そのくせ謎の浮遊感があった。


 自分がここにいるのに、ここにいない感じ。どこにもいない感じ。寝ぼけているせいだろうか。


「朝飯·····つくろ」


 頭に残る変な感じを振り払いたくて、気怠い身体を無理矢理動かした。顔を洗った頃にはもう夢をみたことも忘れていた。


△△△△△△△△△△△△△△△


 香ばしい匂いに引き起こされるように目が覚めた。時刻はきっかり午前六時。私はいつも決まった時間に意識が浮上する。唐松様の元へいた頃の名残だった。


 部屋を出ると、紫揮が朝ご飯を作る後ろ姿があった。近づき、シンクをノックするように叩く。


「おはよ。もう六時か」


「おはようございます」


 私も、背中に触れながら挨拶を返した。私たちの朝はこうやって始まる。


「瑠璃ー! 起きろー!! 」


 紫揮が大声で叫ぶのも、毎朝恒例だ。




 朝ご飯を食べながら、紫揮は昨日あったことをぽつりぽつりと話してくれた。瑠璃と二人で頷きながら聞く。色々びっくりしすぎて頭がぐるぐるした。


 食後のコーヒーを飲みながら紫揮の手を掴んで言う。


「紫揮、言霊を操るセンス凄すぎないですか!? 私はそもそも使っている感覚すら分かんないんですけど」


「まあお前はそもそも力が規格外だからな。あんま気にしないでいいと思う」


 ふと見ると、瑠璃がギョギョッと目を見開いていた。慌てたようにコーヒーカップをテーブルに置いている。


「え、紫揮がいないときどうやって私と話してたの?」


 瑠璃には言霊が効かないけど、他に及ぼす影響は制御できるものではないのだ。


「相手の目を見れば勝手に言霊が相手に向かいます。そこに対象者がいない場合は目を閉じます。私、ちゃんと瑠璃のこと見てました」

 

「ワァー、ソウナンダー」


 瑠璃の目が点になる。それを笑いながら、砂糖がたっぷり入ったコーヒーをかき混ぜているとふと疑問が浮かんだ。


「それにしても、政府は私たちのこと全然追ってきませんよね。私かなり言霊使っちゃってたみたいなんですけど·····」


「こっちの様子を探ってるんじゃないか? 俺の力もよく分からないし」


 瑠璃がふと真面目な表情になって言った。


「それよりも気になってることがあるの。地下空間でさ、藍羽ちゃんの言霊はなんで効かなかったんだろ」


「だってあそこは言霊を使えない場所だろ?」


「いや、でも紫揮さ·····、自分で言ってたじゃん。片方の力が引き出される感覚って·····。それに時間を止めたならやっぱり純粋な赤の力だったんじゃないの?」

 

「「確かに!! 」」


 二人の声が重なった。立ち上がりかけたのを、座り直しながら考える。紫揮が質問した。

  

「うーん。ちなみに藍羽はなんて言ったんだ?」

 

「·····隕石落ちてこいって」


「アホだな」


「でしょ。結局落ちてこなかったから良かったけど、本当ヒヤッとしたよ」


「すみません·····」


「いーよ、気にしないで。そのおかげで何か分かりそうだし」


 瑠璃が、私に笑いかけながら人差し指を紫揮に向ける。私も視線を移す。


 紫揮は黙って唇に指を添えていた。最近気づいた、考えているときの癖だった。


 数秒後、薄い唇が開かれた。


「ずっと引っかかってたことがあるんだ。藍羽の精神を操れば、きっとすぐにでも地球は滅びる。なのに俺にわざわざ協力を求めるのは何故だろうと」


「た、確かに·····」


「あの男は言っていた。宇宙を消滅させると。そして、『隕石』に通じなかった言霊。今まで考えたらこともなかったが·····」


 紫揮は一呼吸置いて続ける。


「言霊が効くのって、地球限定なんじゃないか?」

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