第16話 覚醒

 一度家に戻った私たちは、木目が綺麗に浮き出たテーブルの上に地図を乗せ、どうやって紫揮のいる建物に侵入するか話し合っていた。


 といっても、私はただ頷いてるだけだけど。


「実は、紫揮に発信機を仕込んであるんだ」


 瑠璃が電車の中でそんなことを言い出したときは驚いた。ここに戻ったのは、精密なデータが扱うため、らしい。


「霊詞核の気配が途切れたってことは、紫揮に意識がないってことなんだよね·····」


 ムムム、と唸る瑠璃。


「あ、寝たとかじゃないと思うよ。発信機の動きを辿ったら、明らかに車で移動してる感じだし」


 データが送られるのを待っているらしい。瑠璃は珍しく苛立った様子で、机の端っこを指で弾いたりしてる。


「あ、やっと来た」


 パソコンのモニターを覗き込むと、紫揮がいるという建物内部の見取り図だった。


 ほうほう。·····よく分からん。


 私は早々にギブアップしたが、やはり頭脳の違いだろうか。一方の瑠璃はというと、口角を片方上げて頷いていた。この膨大な情報を一瞬で読み解き作戦まで立てたのだろうか。


「藍羽ちゃん、私に付いてきて」


 彼女は私に向き直って告げる。その目には確信めいたものが宿っていた。


「·····いざというときは、言霊を使ってほしい。私を守って」


 私は覚悟を決めるようにゆっくりと頷いた。


△△△△△△△△△△△△△△△


「共闘? 俺とお前が? ご冗談を」


「冗談などではない。私と君が揃えばできるのだ。『現在いま』を全て消し去り、宇宙からもう一度やり直すことを」


 聞き間違いだと思った。そうあってほしかった。自分にそんな大きな力があると、思いたくなかった。


「·····何言ってんだよ、お前。そんな嘘に俺が騙されるとでも?」


「予言の書に記してある。それに、私は嘘を吐くならもっと巧妙に、計画的に企てる」


「·····もし仮にそうだとしても」


 目の前の男を思いきり睨みつけた。


「そんなことに協力するわけないだろ」


 男の口からわざとらしく息が吐き出された。哀れむように鎖に繋がれた俺の手首を見下ろしている。


「お前に拒否権があると、本気で思ってるのか? この状況で」


「……思ってるよ」


「は?」



 男の手がポケットから鍵を取り出し、手錠に差し込んでいた。


「て、手が勝手に·····」


 目線だけ、かろうじて動かして俺に向ける。


「ここは言霊が使えない部屋だ。·····赤も緑も青も」


「それが混じったらどうなるんだろうな。俺の中で、完全に調和したら新たな色が生まれると·····そう思った」


 ああ、と男は鬱陶しそうに目を細めた。


「まさかこんなにも覚醒が早いとは。予言の書で何もかも知った気になっていたが·····。やはり天才は気に食わないな」


「やはりとはなんだ。まあいい。聞きたいことは山ほどある」


 服に付いた埃を払って立ち上がる。


「ゆっくりじゃないか」

 


 








 

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