第17話 血濡れ
「気をつけて、藍羽ちゃん。ここに紫揮がいる。紫揮を連れ去ったやつらも」
「はい」
緊張で、喉がゴクリと鳴った。瑠璃の案内に従いやって来た場所は、一見すると普通の建物。しかし一枚床板を剥がせば地下空間が広がり、内部は複雑な構造になっているらしい。
瑠璃からは裏口から侵入するとしか伝えられていないから、詳細は分からないんだけど。
「よし、行くよ」
その言葉を合図に、私たちは走り出した。警備員がいない裏口を、ダッシュで通過。人気のない通路を走り抜ける。
だけど、体力のない私はすぐに息が荒くなってきた。走らなきゃって分かってるのに、どんどん足が重く、熱くなっていく。足がもつれそうになったそのとき。
「この辺かな〜?」
前を走っていた瑠璃が急に停止したので、止まることができずに背中にぶつかった。
「藍羽ちゃん、そのまま私の後ろにいてね」
言われなくてもそうするつもりだったが、そんなことよりも瑠璃がポケットから取り出したものに目を奪われた。丸い形状で、紐のようなものがくっついている。瑠璃は、無表情でそれを引っ張った。
バーーーーーーーン
耳が割れるような轟音が響いた。
爆発したのだと理解するのと同時に、ああ、あの音だと思った。
紫揮と出会う直前に聞いた、あの場にいたものを混乱させた音の正体は瑠璃が仕掛けた爆弾だったのだ。にわかに辺りが騒がしくなる。
「ごめん、驚かせちゃったね。これが一番手っ取り早かったんだ」
瑠璃はそう言いながら私を軽く抱き上げて、衝撃で床に空いた穴から躊躇なく飛び降りた。
「よし、もうちょい走れそう?」
コクリと頷いた。走れる、というか走る!
「じゃ、レッツ·····あ」
気づいたときにはもう遅かった。
「動くな、侵入者ぁぁ!」
いつの間にか、進行方向に完全武装した男たちが立ち塞がっていた。右も左も、後ろも同じ。私たちは完全に包囲されていた。
「藍羽ちゃん、今こそっ!」
瑠璃が声を張り上げる。そうだ、そのために私がいるんだ。焦りで頭が真っ白になりかけていたが、言葉を絞り出した。
「えっと、隕石! 隕石落ちてこい!」
「藍羽ちゃんっ、それ私たちも死ぬやつ!」
……え、そうじゃん。何やってんだ私。肝心なときに!!
「あぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!! 」
私たちを取り囲んでいた男たちまでも巻き込んでこの場が絶対の空気に包まれたが、しばらく経っても隕石は落ちてこなかった。
「·····あれ?」
「え、ハッタリだったの!? と、とりあえず捕らえろー!! 」
「ひぃぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃぃ」
屈強な太い腕が、こちらに向かって伸びてくる。どうすることもできず、ただ目を強く瞑った。
ハァ、ハァ、ハァ
──────あれ、荒い息遣いが聞こえる。
目を開けると、私たちを囲んでいた男たちは全員倒れていた。代わりに紫揮が壁にもたれかかって座り込んでいる。
「「紫揮!? 」」
私たちは同時に叫んだ。力なく垂れ下がった紫揮の手を握る。
「大丈夫ですか!? なんでここに!?」
紫揮が俯けていた顔を上げる。一瞬、息をするのを忘れかけていた。
海のように青かった双眸は、左目が血のように赤く染まっていた。そして、本当にその赤い瞳から血が滴り落ちている。
「説明はあと·····。それより、さっさとここを出た方がいい。藍羽、言霊を使ってくれ。一度使ったなら一回も二回も同じだ」
私は無言で頷いた。状況も何も分からなかったけど言われるがまま唱えた。
「山田瑠璃、久遠紫揮、
気がつけば、木の匂いに包まれていた。
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