第20話 死亡します

「なるほど!! 」


 今度は、私と瑠璃の声が揃った。顔を見合わすと、瑠璃がプフッと笑った。


「確かにそれは盲点だったな〜。そっかぁ、月に行ったら藍羽ちゃんは無力なんだね」


「私、将来月に住みます」


「お前らなんの話をしてるんだ·····? まあでも、それが分かったところでどうしようもないよな」


 紫揮が元も子もないことを言う。まあ実際そうなんだけど。紫揮は横に視線を流し、またシンキングタイムが始まる。


 静かな空気を打ち破ったのは、瑠璃だった。


「ずっと考えてたんだけどさ」


「ん? 」


 紫揮が視線を瑠璃に向ける。


「私たち、海外逃亡しない? 」


 僅かに沈黙が流れた。言葉を噛み砕いて、理解するための時間。


 数秒後、紫揮が口を開いた。


「ああ、確かにいいかもな」


 話を理解できていないのは私だけだったようだ。二人の顔を、目線が行き来する。


 紫揮が説明してくれた。


「今、俺たちに必要なのは情報だ。予言の書も海外にあったわけだし、何か分かるかもしれない」


「それに国出ちゃえば政府も追ってきにくいでしょ」


「だからこそ政府は全力で阻止しようとしてくるだろうな」


「壮絶な戦いになりそうですね·····」


 紫揮が瑠璃をジッと見つめた。


「瑠璃、頼めるか?」

 

「うん。任せて」


 何の話をしているんだろう。二人にしか伝わらない会話が、少し羨ましい。重ねた年月が違うから仕方ないけど、二人に混ざりたくても混ざれない自分が悔しい。


 部屋に戻っていく瑠璃の背中を見送りながら、紫揮に尋ねる。


「瑠璃に、何を頼んだんですか? 」


「護衛を貸してくれって。相手の状況が分からない以上なるべく言霊は使いたくないからな」


 言霊を使いたくないのには同意だが、紫揮の言い方に少し引っかかった。


「貸してくれ·····? 瑠璃専用の護衛がいるってことですか?」


 すると、今度は紫揮の方が驚いたように目を見張った。


「·····瑠璃から聞いてないのか? あいつ社長令嬢だから、昔から護衛が付いてたんだ。今は実家と離れてるらしいけど、人脈はあるからな」


「しゃ、社長令嬢!? 全然知りませんでした·····」

 

 瑠璃がそんなすごい人だったなんて。次に話すとき、変に緊張してしまいそうだ。


 呑気にそう考えていると、頭の中で、社長というワードが何かにぶつかった音がした。


「·····ん? 社長? 瑠璃のお父さんは、社長?」


「急にどうした」


「いや、あの急に気になったんですけど」


 喉が、カラカラに乾いてる。気道に入ってくる空気が、痛い。


「瑠璃のお父さんの名前って、何かなーって」


「確か·····山田祐介だった気がする。それがどうかしたか?」


「い、いえ。なんでもないんです」


 どうしよう。ハッキリしてしまった。ハッキリさせてしまった。


『山田ホールディングス代表取締役の山田祐介氏が死亡します』


 紫揮が来る直前、私は瑠璃の父を殺していた。

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