第11話 外の世界
「わぁ・・・・・・!!人がいっぱい!!」
混雑した駅構内。陽気な音楽が流れ、行き交う人々はスーツを着ていたり、大きなリュックを背負っている人など様々な装いをしている。
「ほら行くぞ。電車は待ってくれないから」
紫揮に手を引かれながらも、美味しそうなお菓子を売ってるカラフルなお店や、本屋、映画のポスターなど面白そうなものがある度つい二度見してしまう。
ドアが閉まる直前で電車に滑り込むと、あとは座ってるだけだった。暇なので、車内広告や急速に過ぎ去る窓の外の景色を眺めて過ごす。ただ快適に座ってるだけで目的地まで運んでくれるなんて、電車はすごい乗り物だな、と思った。
「藍羽ちゃんっ、ここで降りるよ!」
瑠璃に急かされ、慌てて電車の外に出ると、そこにはさっきまでとは違う景色が広がっていた。閑散としていて人通りが少ないホームを三人で並んで歩いた。
「紫揮、ここからどのくらい歩くんですか?」
「歩いて10分、そこからバスに15分乗って、さらに20分歩くな」
「遠っ!!別荘から駅まで行くのにもそのくらいかかりましたよね?う〜、もう歩きたくない〜」
「そのくらい周りの住宅や公共交通機関と離れていた方が特別感あって信者もありがたがって来るし、防護結界の影響が周囲に現れると大変だからな」
「な、なるほど……。頑張ります!」
そして、私は紫揮の家に着く頃には一人しおしおになったのである。
「着いたぞ」
そう言われて顔を上げると、立派な建物が建っていた。別荘の方は洋風だったけど、こちらの建物は和な感じで、平家だけど敷地が広く、障子や掛け軸、畳、ふすまなど初めて見るものがたくさあった。
「すみません、私ちょっと休憩してきます」
「分かった。瑠璃、あっちにある蔵書室を見てきてくれ」
「ラジャー!」
紫揮は瑠璃が向かったのとは別の方に向かう。二人が役割分担をするのを横目に見ながら、私は畳に倒れ伏した。冷たい感覚が服の上から腕やお腹に広がる。
こんなときにも役に立たない自分を惨めに思いながらも、体力はこれからつければいいと自分に言い聞かせた。畳の繊維を指で辿ってゆく。それを真っ直ぐになぞっている間はツルツルしていて気持ちいいのに、少し逸れただけでざりと嫌な触り心地になる。
しんとした世界には、私以外誰もいないよう。静けさに身を委ね、耳がキーンとするのを感じていると、遠くからガサゴソと何か漁っているような音が聞こえてきた。紫揮か瑠璃が何か探しているのだろうか。少し足も回復したことだし、手伝いに行こっかな。立ち上がって、音のする方を目指した。
歩を進める度ミシリミシリと音が鳴る廊下を歩き、いくつかふすまに遮られた部屋を通り過ぎる。
そっとふすまの隙間から中を覗く。そこには紫揮がいて、紙の束を抱えて静かに泣いていた。
「藍羽……」
立ち尽くす私に気付いて、紫揮は顔を上げる。目が合うと、紫揮は気まずそうに視線を逸らした。
「父さんの日記があったんだ。引き出しが二重底になってて……。一緒に、読んでくれるか」
深海を映したような濃い青の瞳が私を射止める。深い海の底に沈み込んで、吸い込まれそうになる。黙って、コクリとうなづいた。
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