第7話 帰る場所
「全員死んだって……どういうことですか!?」
「言葉の通りだ」
「なんでですか!?おかしいじゃないですか。全員死んだなんて。それに、なんで紫揮は生きて……」
言葉は、そこで止まった。最悪の想像が脳を支配する。紫揮は静かに目を閉じた。否定しないことが、私の想像を事実に変えた。
「う、嘘。なんで。そんなの知らない……。私、私は……」
だって、言霊使いの一族が滅べだなんて、言ったことない。ふと、『久遠』という単語が頭に浮かぶ。そういえば、さっき瑠璃が言ってたな。一気に色々捲し立てられたからスルーしてしまったけど、久遠の一族って……。
「ねえ、紫揮。紫揮の苗字って何ですか?」
「……久遠、だ」
それを聞いた瞬間、目の前が真っ暗になったような気がした。『久遠』という響きに、間違いなく覚えがあった。ああ、思い出したかも。七年くらい前だっけ。
『久遠の一族が、滅亡します』
私は、そう言葉にした。言われるがままに人を殺め、知らないうちに自分の母親も殺してしまっていた。
繋いでいた手を振り払う。憎い。憎い。自分の全てが憎かった。このまま、人魚姫みたいに泡になって消えてしまいたい。私ごと、一族が葬られた事実も消えてしまえばいい。
外へ飛び出す。初めて、自分の意思で。森の中へ駆け込む。とにかく奥へ、誰も私を見つけられないように。
無我夢中で走るけど、私は今までほとんど運動をしたことがなかった。当然体力なんて全然なく、その場に座り込む羽目になる。
あそこの茂みで休もう。
残りの力を振り絞って、近くに生い茂る草の間に入っていく。もう何をする気にもなれない。膝の間に顔をうずめた。
△△△△△△△△△△△△△
ポツ。
どれくらい茂みでうずくまっていただろう。突然降ってきた冷たさに、ピクりと肩が震えた。
雨が降り始める。始めは少しずつで、だんだん強くなっていく。
帰らなきゃ。
咄嗟にそう思ったのは、風邪を引くかなと思ったから。足がズキズキ痛むけど、我慢して立ち上がる。
辺りを見回すと、競うように枝を広げる木々と絡まる蔦で、視界はすごく悪くなっていた。
・・・・・・あれ、私どっちから来たんだっけ?
どこを見回しても同じような景色に見えて、帰り道が分からない。また同じように座り直す。膝を抱えて、少しでも自分を守るように蹲った。冷たい雨が、体から体温を奪っていく。どちらに進んだらいいのかも分からない森の中、『死』という物騒な言葉が、頭によぎった。
その言葉を見ず知らずの人に使っていたときは遠く感じたのに、いざ目の前にそれが掲げられると、体の底から恐怖が這い上がって来て、どうしようもないような気持ちになる。
たくさんの人を殺してきたくせに、幸せになんかなろうとしたからかな。これが天罰ってやつなら、私は……。
そのとき、ふと雨が止んだ。ような気がした。だって、雨音はまだ響いてるから。でも、雨はもう私を叩いてはいなかった。
「藍羽、戻ってこい」
「紫揮……」
雨の中、紫揮が傘も差さずに立っていた。違う、彼が持っている傘は、私に差し出されていた。
「どうして……。なんでここに」
「探したからに決まってるだろ」
紫揮は、しゃがみ込んで私と視線を合わせ、もう一度言った。
「帰ってこい、藍羽」
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