青の言霊使い

半チャーハン

第1話 間引く言霊使い

 キィィと金属の擦れる音が聞こえて、私は目を覚ます。錆びた鉄製の扉が開く音。使用人が、お盆を雑に私の前に置く。


藍羽あいは様、朝食でございます」


 いつも通りの時間、いつも通りの冷めきった食事。


 今日も、単調な朝が訪れる。朝ごはんを食べて、それから・・・。


 そのとき、再び部屋の扉が開いた。唐松からまつ様がくるりと巻いた前髪を得意そうにいじりながら入ってきて、真っ直ぐ私の方へ歩いてくる。


「これを」


 人差し指と中指の間に挟まれて差し出された紙に書いてある内容を確認する。軽くうなづいて、そのまま読み上げた。


「10月9日午前7時57分。山田ホールディングス代表取締役の山田祐介氏が死亡します」


 今日も、単調な朝が訪れる。朝ごはんを食べて、それから、言霊の力で人間を間引いていく。


○○○○○○○○○○○○○


 そのとき、私は5才だった。お母さんはテレビでニュースを見てて、私もそれを覗き込んでいた。内戦のニュースであった。


「ママ、この人たちは何してるの?」


「うーんとね、ケンカをしているのよ」


「えー? 大人なのに?」


 小さい頃の私は、大人のことを完璧な何かだと思っていた。


「大人だってケンカすることはあるのよ〜」


 テレビ画面が切り替わって、軍事訓練の様子が映し出された。生中継のようだ。訓練をしている軍人たちは、誰一人幸せそうな顔をしていない。それなのになんでケンカをするのか、私には分からない。だから、何気なく口にした。


「みんな、仲良くすればいいのにね」


 すると、銃をバンバン打っていた兵士たちの動きがピタッと止まる。数秒間ぼうっと空を仰ぎ、やがて銃を捨てて談笑し始めた。


「え・・・・・・」


 ママが掠れた声を出して、私を振り返る。


「ママ・・・・・・?」


 不安になって伸ばした私の手を、ママは振り払った。


「ば、化け物! 触んないで!!」

 

 私はその拍子に机の角に頭をぶつけて、気絶してしまったらしい。気がついたら知らないところにいた。


「おっはよーございまーす」


 目を覚ますと、歌のお兄さんみたいに笑顔で手を振る男がいた。前髪をくるくるとおかしな方向に巻いており、彼が動くたびぴょこぴょこと跳ねる。


「おじさん、誰? ここはどこ? ママは?」


「まァーまァーまァー。おーち着いて。そして僕はおじさんじゃなーい。お兄さんだァ」


 大袈裟に手を動かしながら、男は叫ぶ。


「僕はねェ、君を調教しろってお偉い様方に言われてるるのォー。だからァ命令に従わなきゃ。ごめんねェ」


 そう言うと、男は躊躇なく私の腹を殴った。


「ァグゥッ」


「とりあえず、『私は国に従順であります』って言ってくれないかなァ」


 男は、何をされたか分からないでうずくまっている私を、足で2回、3回と蹴る。


「言ってくれないかなァ」

 

 一定のリズムを刻み、男は楽しそうに足を動かす。『ワタシハクニニジュウジュンデアリマス』言えば楽になれることは分かった。理解はしたけど、喉は小さく震えるばかりで声が出ない。


「僕だってェ? 無抵抗な幼女をいじめるなんてしたくないのォ。だからァ、僕のこと恨んじゃダメだよォ」


「わ、たしは……。国に、ジュウジュンで……」


「聞っこえなァい」


「カハッ」


 体に衝撃が走る。


「ほらほらァここのマイクに入るように言ってくれないと、僕怒られちゃうじゃァん」


「わたしは……、くに、に……ジュウジュ、ンで、す」


 言い終わった瞬間、頭に靄がかかったみたいになって、急に目の前の男が神のごとく素晴らしい人に見えた。最初、この人の崇高さに気がつかなかった自分を責めたほどだ。


「僕はァ唐松って言うんだー。よろしくゥ。いいかい、君はァ、僕の命令通り、いらない人間を間引いていけばいい。分かったなァ?」


「はい・・・・・・。唐松様」


 私はただ、頷いた。






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