デスゲーム会場の清掃のバイト
夏休み、俺は楽して稼ぎたいと思って闇バイトに手を出してしまった。とあるサイトの求人で見つけたんだけど、単にイベント運営しか書いていなかったから大丈夫だと思っていた。でも、それはひそかに行われているデスゲームの運営のバイトだったんだ。信じられないよな。俺も会場を見るまでそう思ってた。でも俺は、事実を目の当たりにした。なにがあったのか、少し話したいと思う。
例のアルバイトから採用通知が来て数日後、俺は仕事先から教えられた会場へと一人で向かった。一人で来いと言うのも向こうからの指示だった。最寄り駅につくと、真っ黒い送迎バスが俺を迎えに来ていた。その時、嫌な予感はしたが大金には代えられないと勇んでバスに乗った。バス内には俺以外にも数人アルバイトが座っていた。
バスが動いている最中、窓の外も見えないし、音も聞こえない。まるで、どこへ行くか誰にも悟らせないようにしているようだった。そして、バスは止まり俺達が降りると、広い空き地と地下へと続く階段があった。俺達は誘導係の指示のもと、階段を下りた。すると、その中には閉鎖空間が広がっていて、壁や床に血がべったりとついていた。周りには、銃やナイフこそないが、換気扇のようなものや針が置かれていた。当然それらにも、血がついていた。
つまり、俺達の仕事は、デスゲームで汚れた会場を綺麗にして再び使えるようにすることだった。俺は目の前の光景を疑った。だが、そこにあるのだから、言い逃れはできない。誘導係が、俺達にモップを渡すと清掃するよう指示してきた。当然のように、従わなければ殺すと脅された。俺は、震えた手を抑えながらモップ清掃に従事した。モップに洗剤をつけ、床の血をふき取る。だんだんとモップが赤く染まり、血の匂いのようなものが充満してきた。吐きそうになりながらも、俺はモップを洗い、新たに洗剤をつけて、また床を、そして壁を拭いた。
さらに、切れ味のよいナイフの付いた換気扇のようなものを、ぞうきんできれいにしていった。べたべたとする感触もあったが気にしないことにした。そして床の底に仕掛けられていた針山のついた落とし穴を、命綱を使って掃除した。針山には、すでに白骨化した頭蓋骨や、今死んだばかりの死体が転がっていた。叫びたくても、係の人間の視線が俺達の声を殺していた。無事に戻るため、俺は必死に働いた。まさに命がけと言える仕事だった。
ひと段落置いて、次に誘導係は俺達を別の部屋へ案内した。そこには、さっきの部屋よりも生々しい死体が、ごろごろと床に伏せていた。多くの人間が死んでいるということは、ここがゲームの始まりだったのかもしれないと今は思う。俺達は、やり方も知らないまま、焼却場までのルートを教えられた。つまり、ここにいる死人を火葬しろということだろう。俺達は手分けして、彼らを運ぶことにした。4人一組に、自然となって、知らない人間と知らない人間を運び、焼却場へ運ぶ。異常な光景だった。何度も悪臭に見舞われながら、俺はせっせと死体を運んだ。
一つ、死体を運び終わり、もう一つ運ぼうとした時だった。せーのと持ち上げた瞬間、死体が俺の腕を掴むような感覚がした。俺はあまりにもびっくりして、その死体を落としてしまった。当然、それを見ていた誘導係の一人は、俺の腕を引っ張っていったと思うと、とたんに放り出した。床に倒れた俺に、誘導係はあろうことか足で俺を踏みつけていく。何度も、何度も......。何度も何度も何度も何度も!!
見せしめにするかのように、俺はボコボコにされた。だが、誘導係は床で倒れていることは許さない。すぐに俺を立ち上がらせ、持ち場に戻した。俺は、ボロボロになりながら、死体をもう一度持ち上げて焼却場へ向かった。火が燃え盛るその場所で、汗を噴出させながら、死体を放りこむ。時々、息がまだあったのか叫び声が聞こえてくる気がした。俺はそれを必死に耳を塞ぎながら仕事を続けた。でないと帰らせてくれないからだ。
ようやく、死体の焼却が終わって、死体だらけだった部屋もモップ掛けしたこともあって、こざっぱりした小部屋になった。最悪だが、部屋がきれいになる様は少しスカッとする。残りの部屋も同様に、モップ掛けや死体の焼却とせわしなく続いた。何人、何十人と人を焼き殺した。この人たちの遺族はどうしているのかと、考えて気が滅入ってしまう。だから、考えないようにしようとしていたが、人が増えていくほどに気持ちは抑えられなくなっていった。
だが、それも終わりを告げた。やっとすべての部屋が片付いたんだ。大体、仕事を始めてから5時間ほどだった。少し、休憩を取っていると誘導係が俺達を集めた。誘導係は俺達に仕事の終了を伝えた。俺達はホッとしながら、その会場から外へと向かった。その最中、俺達と同じように誘導係に会場に連れていかれる人たちを見た。
少し気になって、俺は誘導係に聞くと、その一人はすまし笑顔でこう言った。
「ああ。彼らは、お前達のように金に目がくらんだ、デスゲームの参加者だ。これから、あそこはまた血の海になるだろう」
俺は彼の言葉に、もう恐れも感じなくなった。ただ、彼らが可哀想でならなかったからだ。この体験は、絶対に忘れられないだろうし、忘れない。というよりも、忘れられない。
そのせいで俺は、今も黒いバスを見てしまうと乗り込んでしまいそうになっている......。
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