益祭町

 世の中には、人間が入ってはいけない場所がある。自然もその一部だともいえるが、今回は違う。町全体が禁足地だったのだろう。あの町はおそらく、忌み地だ。


 私は、大学で民俗学を専攻している。そのフィールドワークの一環で、地名と災害の関連性について調べようとしていた。そこで、この益祭町やくさいちょうに出会った。こう言う美しい地名は災害と無縁と言いたいところだが、美しい名前であればあるほど、災害が多い危険性のある地域であると噂されている。実際、この町の図書館や博物館の文献をあさっていると、昔から山崩れや川の氾濫の多い地域だったようだ。だが、なぜここまで土地が荒れやすかったのかまではわからない。地盤が緩かったのか? いや、違う。では川が元凶か。それも違う。地理に詳しい先生に聞いてもどれも違うことが判明した。


 私はさらに研究を進めるために、益祭町の端にある山へと上った。そこは、過去で一番荒れやすい山だった。それに、神隠しも多いことが判明した。近年でも、この山で遭難して行方不明者が続出していることは後から知った話だが......。そんなことも知らず、私はさらに獣道を登っていった。


 頂上にたどり着くと、そこには大樹が1つあった。森の木々がそれを遠くから見守るように遠くに生えており、それだけがぽつんと大きくあり、そしてよれて切れたしめ縄をつけていた。私はそれを見て、それがおそらくご神体であると考察した。スマホを取り出して撮影した。その時、突然として妙な風が木々を揺らした。まるでひそひそと私を見下げているようだった。ゆらゆらとうごめく木々につく葉は、私の心に焦燥を走らせた。まずいと思い、私は山を下りていった。だが、時すでに遅かったのか、山道は変化を遂げてどこへ向かえばいいのかわかない迷宮と化していた。そしていつの間にか、まっすぐ向かったはずなのに頂上に戻ってきたのである。


 私は、恐れよりも先に周りを見渡して原因を探った。スマホの写真も消したが、何も変わらず雨までも降りだした。つまり、山は私を許さず迷いと恐れを永遠に抱かせ続けようとしていたのだ。それでもなお、私は平静を保ち続けた。今度は自分の手で、しめ縄を結び直した。綺麗なものにはすぐに取り換えられないものの、丁寧にやり遂げた。すると、風が止み始めた。そして、私は精一杯想いを込めて手を合わせた。目を閉じ、静かに祈ると周りがザワザワと音をたてはじめた。許されたのか、山は私に道を示しだした。


 その後、あの山について調べると頂上にあった木は、どうやら地域の厄災を鎮めるために、明治時代あたりに沖縄から取り寄せた屋久杉だったらしい。さらに運の悪いことにその木は、神聖な枝葉を接ぎ木して苗にしていたらしい。それによりひどい厄災が降りかかるようになたとも言われている。


 この内容を発見したのは、近隣住民の古い蔵からだった。どの図書館にも、どの博物館や資料館に言ってもない、忘れられた伝承だったのだ。そして、もう一つ分かったことがあった。この町は、昔にあった三つの村が合併して作られたものだった。

そして、あの山があった地域の村は『厄災村』と呼ばれていたらしい。


 だが、もっと恐ろしいことに屋久杉は、かつてあった三つの村の小高い丘や山すべてに奉られているらしい。つまり、忘れられた屋久杉はあと二つある。もう、厄災どころの騒ぎではないだろう。


私は、鎮魂と調査のため残り二つの地域へと向かう。

そして、災害が無くなることを信じて私は祈り、伝え続けるつもりだ。



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