呪物展の警備

 自分は、美術館の警備員をしています。小さなギャラリーではありますが、たまに企画展示をしていて多くの人を賑わせています。ですが、先日の企画展示はかなり肝を冷やす出来事がありました。


 オーナーが企画したのは、全国の呪物を集める『日本の呪物展』というものでした。なんでも、最近流行りの漫画かアニメの影響だと言うのです。よくは知りませんが、正直聞いた時は嫌な予感しかしませんでした。ですが、展示物は次々とこのギャラリーに集められていきました。当然、それらを警備するのが自分の仕事です。ですが、自分は幽霊や、呪いが大嫌いです。そういうのを扱った映画も絶対に見に行ったりしないくらいです。しかし、仕事ですので向き合うしかありません。


 企画展開催日の前夜、自分はいつもの通りにギャラリーの巡回のため、管理室から展示室へ懐中電灯を持って向かいました。するといきなり、自分を迎えるように廊下でパンッという音が聞こえるのです。それも、数発。銃声とは違う軽い音でした。自分は懐中電灯を持つ手を震わせながら、ギャラリーの中に入りました。


 中にはすでに、いろんな呪物が並んでいました。藁人形のような自分でもよく知る呪いのアイテムから、なんだかよくわからない壺までがガラスケースに入っていました。自分には霊感というものがありませんし、あってほしくもないのですが、あれらを目にした途端に起きた鳥肌と怖気のようなものは、霊感と言うほかにありませんでした。


 見回っていると、突然めまいや吐き気のようなものに襲われました。悪い気でも流れているような状況に自分は混乱しつつも、すぐに管理室に戻りました。すると、急にすっきりとし始めたのです。二日酔いが急に治ることはないように、これもまたひどくなると思っていましたが水を一杯飲んだだけで平気になりました。やはり、あのギャラリーにある呪物が原因だとわかりました。あのガラスケースに収まらない、所持者の恨みつらみがこちらを蝕んでいたのでしょうか。そんなこと考えたくないため、自分は仕事に集中しました。あの中に、入るのは危険なので自分は監視カメラでそれらを見守ることにしました。


 監視カメラでしばらく観察していると、ある地点から砂嵐のような映像の乱れが起き始めました。砂嵐が終わるとともにカメラを再度見ると、急にケースに入っていた部族のような仮面がカメラを一瞬見つめているように感じました。その時は、コーヒーを飲む手が止まってしまいました。自分は、ため息をつきながらギャラリーに向かいました。当然、誰もいないのに動く仮面は異常ですので、確認が必要だからです。向かうと、仮面は元の位置に戻っていました。うーんと首をひねりながら、長居もしたくないのでそそくさと戻りました。その時一瞬だけ視線を感じたのは気のせいだと信じたいです。


 また管理室に戻って、カメラで監視し続けていると、今度は腹話術人形ようなものがケースから消えていました。自分は頭が痛くなりそうでした。嫌々またギャラリーに向かうも腹話術人形はここにはいませんでした。くまなく探すも、見当たりません。探している間、頭痛やめまい、吐き気がしそうになりました。辛く長い戦いは、私の根負けとなり、管理室に戻ることにしました。すると、それをあざ笑うかのように人形が元の位置に戻っているのを確認しました。自分が天を仰いでため息をついていると、また監視映像に砂嵐が起きました。


 砂嵐が終わった瞬間、自分が見ていたカメラの前に先ほどの腹話術人形がどアップで映されていました。こんなことは、人生でも仕事上でもありません。自分はパニックになりそうでしたが、また砂嵐がザザッと起きた後、人形は小さい体でこちらに向かっていることが判明しました。


 自分は、自分を守ることに必死になり管理室の扉を完全締め切り、立てかけてあったつっかえ棒と長机でドアを塞ぎました。すると、ドンドンドン!ドンドンドン! というドアを叩く音が聞こえてきました。自分は、首を振って自分はいないとおまじないをかけました。自分はドアを塞ぐ長机の下にもぐり、必死に扉が開かないようにしていました。ですが、ドンドンとドアを叩く音は鳴りやみません。


それから、数分、数十分くらいでしょうか。やっと、音が止みペタペタと足音が遠ざかっていくのが聞こえました。私はゆっくりと、体を起き上がらせてカメラを見ました。すると、腹話術人形が元に戻っていました。その時にはもう夜も明ける頃になっていました。やっと恐怖から解放されると思い、のどが渇いたと思い管理室から出ると先ほどの腹話術人形が、さっきまで持っていなかった包丁を持って倒れていました。自分は発狂しそうになりましたが、冷静になってすぐに管理室に戻ってガムテープを取り出しました。管理室を出た後、すぐに人形をガムテープでぐるぐる巻きにしてミイラのような状態にした後、自分はギャラリーを通りすぎて元々入っていた木箱の中にしまって、またガムテープでぐるぐる巻きにして開かないようにしました。


 荒息を立てて作業をしていると、肩にポンと手が置かれました。叫びながら振り向くと、そこには朝番で自分の代わりに来た警備員でした。ふぅと胸をなでおろして帰路につきました。


 正直、もう二度とあんな思いはしたくありません。夜勤明け、警備員仲間に聞くと、企画展はたった1日で終了したそうです。理由はわからないと言っていましたが、私にはまだガムテープでぐるぐる巻きにしていた木箱がガタリと動き出したことが関係していると思っています......。

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