宇宙人が描いた絵
私は絵を集めるのが趣味で、よくオークションに行ったりしております。先日も、興味のそそられる絵はないかと出品一覧を見ると、ある絵に不思議なことが書かれていました。その絵はなんと『宇宙人が描いた絵』だと言うのです。
かつての美術家が描いた模写、近年描かれた呪いの絵、AIによって出力された現代アート......。いろんな人のいろんな思いの絵を見てきましたが、宇宙人が描いたという絵は見たことも聞いたこともありません。私は、一気に興味をそそられて落札することに決めました。数十分ほど待ち、お目当ての絵が出品されました。本当かどうかわからないため、かなり手ごろな値段からスタートされたからか、または誰も興味がなかったのかほぼ出品価格で手に入れられることができました。
そして数日前、家に帰って来てその絵をリビングに飾ってみました。その絵は、抽象画のようで、多彩の色が幾何学的な線や曲線によって分けられた図形に、あてはめられているといったものでした。しばらく飾っても、正直よくわかりませんでした。私もそこまで芸術に詳しいというわけではなく、ただ美しいものが好きなだけなので造詣はからきし。だから、これがなんのためにどのような方法で書かれているのか理解できませんでした。ただ一ついえることは、いままで飾ったどんなものよりも美しいということです。
美しいという表現は余りに抽象的すぎるので、もう少し踏み込むとあの絵は綺麗すぎるのです。線や曲線、色の配分までもがすべて数学的に決めてきたかのような真面目さと、気持ち悪さを内包しているのです。それでも、私はその絵にとても惹きつけられていました。私はいたく気に入り、そのままリビングに飾ることにしたのです。
それからまた何日か経ち、最近ではあの絵の近くで奇妙なことが起き始めたのです。戸棚に置いていた花瓶が一人でに割れたり、本だなに置いていた1冊の本が落っこちたりしているのです。それや昼夜問わず、数時間おきに丁寧なくらい時間ぴったりに落ちるのです。ひとりでに落ちるのも気味が悪いですが、こんなにも生真面目な怪現象はありえません。ポルターガイストのような幽霊現象とは別の、何かが起きていると確信しました。 私はなんとなく、その原因をあの絵ではないかと思い始めました。
謎のポルターガイストは何日か続きましたが、いつ、どのタイミングでどの場所で起きるかは完全に把握したので、事前に防げるようになりました。正直、不要なスキルではありますが......。そうすると、ある日を境にピタリとやみました。ついおとといくらいでしょうか。
それからポルターガイストはなくなりました。ホッとしているのも束の間、昨日書斎で本を読んでいた時にこちらをじっと見つめるような視線を感じたのです。それからというもの、なんとなく視線を感じるようになりました。特に昨夜は、寝室の窓の外から悪寒が走るのを感じて、私は思い切りカーテンを開けてみて見ると、庭の草むらに隠れる何かがいました。その何かの眼光は、街灯やLEDのように光っていて、こちらを完全に観ていました。
まるで、なにかを狙っているようでした。
ですが、今朝起きても部屋の中は荒らされている形跡もありませんでした。集めていた美術品も、一品も盗まれていませんでした。リビングのあの絵も飾られたままでした。私は疲れているのだと思い、その視線を忘れようとして書斎に入りました。
その時です。私の書斎に、二足歩行の生命体がいたのです。肌は灰色で、目はアーモンド形で真っ黒としていました。身長は2m、手足はかなり細かったかと思います。
私はおそらく宇宙人と遭遇してしまったのです。
あまりの突拍子のなさに、叫ぶこともできませんでした。目を疑いましたが、彼もまた、私を見た途端、驚いた表情を見せて、カメレオンのように周りに溶け込んだのです。目の前で消えたそれは、私を突き飛ばしていったのです。それが走っていく途中、リビングに置いてあった絵が一人でに動いたので、私は逃すまいと外へ出ました。ですが、どこにも見当たりません。それでも、私はあの絵を忘れられずあらゆるところを探しましたが、見当もつかず諦めることにしました。本当に残念です。
あの宇宙人が、必死に持ち去ったのは、彼もしくは彼女自身が作者だったからなのか、あるいはあの絵自体が彼らにとって重要な何かだったのか......。今となってはまったくわかりません。それなのに、依然として庭には宇宙人のようなアーモンド形の二つの光が夜に時々寝室を見つめてくるように感じます......。
私は、いつか宇宙人に攫われてしまうのでしょうか......。
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