夜の街の客引き
これは、僕がまだ社会人になって間もないころの体験です。その時は、仕事にも慣れていなく、残業も多くて終電ギリギリに帰ることも多かったです。
ですが、その日は終電にも間に合わず、とうとう最終電車を乗り過ごしてしまいました。駅には誰もいなく、駅員さんにも追い払われてしまいました。
その日は金曜日だったのでまだ救いがあったものの、今から始発まで過ごす場所を探さなくてはなりませんでした。
ホテルも、0時を過ぎているので取り合ってくれません。当日の朝に帰るので、意味がないということなのでしょう。なので、近くにネットカフェがないか探しました。
その時です。後ろに人の気配がしたのです。ぴったりとくっつくような視線と、足音に僕は不安ながら後ろを向きました。すると、そこには僕よりも少し背の低いおじさんが立っていました。おじさんは、僕が振り向くなり何か言うわけでもなく、ニタニタと笑いながらじっと見つめてきます。
僕は、後ずさりしながら街並みを観察します。スマホも充電切れで、地図もなく当てもないまま探している間、そのおじさんはずっとついてくるのです。
僕はさすがに気になって振り向いて
『何か用ですか』
と聞いた。
すると、おじさんはニタニタとした顔のまま
『宿あるよ』
とボソボソと話しかけてきました。
しかも、料金は1,000円だと言うのです。
多分、彼はどこかの店の客引きで、うまい話だとは思いましたが、あまりの安さに僕は首を振りました。正直よくわからないおじさんの店よりも、ネットカフェの方が、信頼があったからです。当たり前ですが......。
ですが、そのおじさんは話を聞いていないのか、僕の腕をグッと掴んでお店に引き込もうとするのです。僕は、焦りながらその汗ばんでべっとりとした彼の手を振り払い、ようやく近くのネットカフェへ入ることができました。
彼がいなくなり、一息ついたのも束の間、そのネットカフェで手続きをしようとしたら店員から『本日は満室です』という残酷な言葉を聞かされました。
僕は顔が真っ青になりました。ネットカフェから出ると、またもあのおじさんが待ち構えていたかのようにこちらにニタニタとした笑顔を振りまいていました。僕はなんとしてでも、別のネットカフェを探そうと、おじさんの腕を避けながら町を歩きました。
すると、今度は別の女性の方がこちらに気付いて向かって来たのです。様相的に外国の方のようでした。
なにか困っているのかと思い、近づくと彼女はパッと顔が明るくなり僕に
『泊まるとこナイの? うち、休憩できるヨ。うち、行こ? 行こ?行こ?』
と半ば強引にけしかけてきました。
その人はよく見ると、服が小汚く髪もボサボサでした。
さすがの僕も、おじさんの事例があったので気味の悪い誘いには乗らずに無視してまっすぐ歩いていきました。すると、道の途中にいた男性が僕の方へ近づいてくるのです。
その人は、サングラスと額に傷といって、到底カタギとは思えない風貌をしていました。
そして、僕に近づくなり
『お兄さん、休憩しましょうよ』
と言って僕の腕をグッと掴んできました。
僕は、怯えながら振り払い、彼の顔から背けながら歩くと別の人間にぶつかってしまいました。すいませんと、平謝りしてその人を見ると、一番始めに声をかけてきたおじさんでした。
僕は思わずヒッと声を上げてしまいました。
僕は、改めて街を見渡しました。すると、駅や居酒屋の周りにはあのおじさんと同じような客引きが点在しているように見えてきました。もう誰が客引きで、誰がそうでないか想像できません。
僕はネットカフェを頑張って探して歩きだしました。
もう、かれこれ1時間以上は歩いていたと思います。
さすがに休憩したいと思い、近くにあったコンビニに避難しました。イートインスペースはありましたが、当然使用できなくなっていました。多分、僕みたいに帰れなくなった人がたむろしないようにする対策なのでしょう。僕は、エナジードリンクを買って店を出ようとしました。
その時、店員さんがエナジードリンクを僕に手渡しながら
『お店探してます?』
と言った。
僕はネットカフェを探していると言うと、彼はそんなところよりも上の階に休憩できるところがあると言い出したのです。僕は拒否しましたが、彼の手はエナジードリンクと僕の手を離しません。
僕は強引に手を引っ張り、エナジードリンクを持って外に出ました。
すると、ハイエナのように獲物を定めていた数人の客引きが僕を襲ったのです。
『こっちに来い』『こっちに来い』と言いながらニタニタと笑った男性や女性が僕をあっちに引っ張り、こっちに引っ張ったりしてきました。
引きちぎられそうになりがらも、僕はそれらを何とか振り切りました。
僕は、走ってなんとか見つけたネットカフェに入りました。ここを最後にしたいという思いで駆け込むと、やっと案内してくれました。その時はホッと安心しました。
もう、こんな嫌な体験はしたくないと思いました。
次からは、終電に間に合うように努力します。
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