LOOP=8
俺は、中学からずっと都市伝説を聞いたり、読んだりするのが好きだった。大学になった今でも、オカルトサークルに入って日々、マイナーな都市伝説を調べていた。
そんな中、オカルトサークルの先輩Zから「『プール』と8回唱えると異世界へ行ける坂道がある」という噂を聞いた。異世界へ行く類の都市伝説はよくある。エレベーターに乗ったり「飽きた」と書かれた紙を枕元に置いたり、合わせ鏡を使ったりする方法などいろいろある。
だが、そんな異世界へ行く方法の中で先輩かの噂は聞いたことのないものだった。でも、聞き覚えのないということは、まったくのデタラメか、ガチの奴すぎて出回っていないかのどちらかだろう。俺はもちろん後者に賭けて、先輩の話をもう少し詳しく聞いてみた。
異世界に行ける坂道は、どうやらこの大学近くの山にあるとのことだ。さらに、プールと8回唱える以外にもいくつかルールがあるらしい。条件は以下の通りだった。
1つ、必ず一人で行うこと
2つ、深夜2時から3時頃で行うこと
3つ、唱えた後に振り向かずに、全力で坂道を上ること
4つ、帰るときは「POOL」を反対から読み8回唱えること
※ただし、この時疲れて止まったりすると失敗する
俺はこれを聞いて、とてもワクワクしたんだ。というのも、今まで聞いてきた異世界へ行く方法よりも簡単そうで、場所も近いということで俺はこの都市伝説を検証することにした。
先輩から聞いたその日、俺は決行した。俺は深夜に大学近くの山のふもとまで、バイクを走らせた。人通りのない道にバイクを路駐して、俺は坂道のある場所まで歩いた。そしてようやくその場所に着いた。先輩から聞いてた通り、坂道にはなぜか首のない地蔵が等間隔に並んでいて奇妙だった。だが、それよりもこれから異世界へ行けるというワクワクが勝って、自分から発せられていた危険信号を見落としていた。正直、ここでやめておけばよかったと今でも思ってる......。だが、俺は例の呪文を唱えた。
プール
プール
プール
プール
プール
プール
プール
プール
準備が整い、俺は地蔵が見守る中、全力で走った。10mいや、20mくらいは走っただろうか。風はなかったはずなのに、山の木々が揺れ始める。その途端、走っていた砂利の多かった坂道が、走りやすいコンクリートのような硬く、蹴りやすい地面へと変わっていった。目の前の夜の星々も見慣れないくらいに明るく感じる。俺はさらに奥へと走る。すると、山の頂上に着いた。
頂上には、2mくらいある四角い石碑が立っていた。そこには六芒星が書かれていて、裏に回ると解読不明の文字が書かれていた。日本の昔の仮名文字や、漢字ではない、もっと別のなにかのようだった。俺はその文字を見てここが異世界だと悟った。
さらに確実にするべく、俺は山を下りた。同じ道を通り、ふもとに降りると俺のバイクはなかった。風景の雰囲気は日本のそれを変わらないが、どこか不気味でよそよそしかった。だが、この世界にも光はあった。おそらく住宅街の明かりだろう。俺は、そこへ向かって歩きだした。すると、町並みが見えた。でも、人の声や影も、生活音さえも聞こえない。しかも、並んでいるすべての家が全く同じ造りをしている。こんなことってあるのか?
気持ち悪くなりながらさらに歩いていくと、ようやく人影が見えた。その人に、声をかけようと歩み寄ると、その人影はこちらをぬるっと向いた。俺はその顔を見てゾッとしたんだ。なんでかっていうと、そいつはのっぺらぼうだったんだ。つまり、目も鼻も口も、なにもなかったんだ。
◇
俺はようやく事態の危険さに気付いて、急いで来た道を戻った。
周りの風景を見る間もなく、前だけを見てまっすぐ走った。
疲れて休みがてら周りを見渡すと、まだ住宅街から抜けていなかった。
「おかしい......、同じところをぐるぐる回っている気がする。」
そう一人呟きながら、まっすぐ続く道路をぼんやりと見た。まったく同じ白い建物が両端にずっと並んでいる。もう山の方へついてもおかしくないほど歩いてきてるのに、どこへもたどり着かず、永遠と道が続いている。町全体が、ループしているみたいだ。そして、その町並みのちょうど半分か、半分を越した先に必ずあののっぺらぼうがじっとこちらを見つめていた。
◇
諦めずにずっと走り続けたものの、相変わらず景色は変わらず人気のない住宅街が続く。のっぺらぼうが焦って走る俺をあざ笑うかのように見つめ続けていた。あの時は正直、冷や汗が止まらなかった。
やっぱり俺は、無限ループする異世界に連れてこられたんだ!
◇
帰りたい一心で、走りながらずっと「プール」を反対から読んでいた。
ループ
ループ
ループ
ループ......。
それなのに、景色は一つも変わらない。
この呪文で元に戻れるはずなんだ......!!
ループループループループループループ......。
何か他に条件があるのか、風景は永遠に同じものを繰り返している。
俺は心が折れて、立ち止まった。すると、そこはちょうどのっぺらぼうのいる中間地点だった。
のっぺらっぼうは口がないが、皺の見え方によっては笑っているように見えた。
俺は藁をもすがる思いでそののっぺらぼうに呪文を唱えた。
ループ
ループ
ループ
ループ
ループ
ループ
ループ
ループ
そういうと、のっぺらぼうはぐっと俺の肩を掴んできた。怖がりながらも、その顔を見つめると、光が差していった。まぶしくて目を閉じたその一瞬、足元に不思議な感覚が走る。光が消えていくと同時に目を開けると、俺は山のふもとに停めてあったバイクの隣で倒れていた。
ようやく元に戻れたと、俺は安心してその日は家に帰った。その後、ちょっと気持ちの整理がついて、サークルに戻ってこの話を先輩に話しようと大学の部室に行ったんだ。部室には、俺の知らない部員が数人テーブルで話していた。正直、個々の時点でまた冷や汗が出てきた。彼らに恐る恐る話してみると、やはり話があわない。思い切って自分の名前を出してみると3年前に行方不明になったと言われた。
俺は唖然となってサークルを出た。さらに詳しく調べると、俺はすでに大学から除籍になっていて、家族も半ば諦めていたらしい。なんとかして家族には伝えて、今は実家でのんびりニート生活を送っている。
後、これは人づてに聞いた話なんだが、どうやら俺に噂を教えたあの先輩Zも1年前から行方不明らしい。まさか、あの人も無限地獄に行ったのだろうか。俺はそうでないことを願って、先輩の帰りを今でも待っている。
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