一般人のアンチ
これが世に出ているということは、私はすでに遠くへ行っているということでしょう。つまり、これは遺書であり、みなさんへの注意喚起です。
私は、普通の会社員でした。いや、一般よりもSNSはろくにやっていない方でした。そんな私に、いつごろかはわかりませんがアンチがいるということが分かりました。それは私が、遠くへ行くと決める日から数えて2年前の事です。
きっかけは、ネットサーフィンが趣味の友達が教えてくれたことからでした。彼女いわく、インターネットの裏サイトで、どんな人間に対しても批判的なサイトだったようです。そこには、芸能人やユーチューバー、会社の社長......。
はては、コンビニの店員にまで、アンチコメントを書き込まれていました。私はそれを聞いて、呆れと恐ろしさを抱きました。
当然その中にも、私への誹謗中傷が書かれていました。彼女のスマホづてでしか見ていませんが、かなりひどいことが書かれていたと思います。
しかし、聞いた当初の私は、それを気にすることではないと思っていました。インターネットもろくに使えない、SNSも投稿していないとなると、見ることがないのです。
まったくの赤の他人の評価など気にする必要がないと、友人にきっぱりといいました。友人は、それでも用心するに越したことないと言っていました。
正直、私はその時、友人の言葉は聞いていませんでした。というのも、現実にまでアンチが影響を及ぼすとは思っていなかったからです。
そういう驕りや独りよがりな部分が、私の悪いところでもあったのでしょうが......。
ですがその日を境に、会社の人たちが急に私に対してそっけなくなったように感じました。報告・連絡・相談しても上の空で、いつも以上によそよそしかったのです。なにか悪いことをしたのかと聞いても、受け答えさえなく歯切れ悪い返事ばかり。
その様子を見て、さすがに気の毒に思ったのか同僚の一人が、スマホを見せてきました。そこには、友人から教えてもらった例の裏サイトでした。
同僚は『あなたが、サイトに平気で嘘をついて約束を守らない人と書いてあったから』という旨を話してきました。私は、わけがわかりませんでした。
少なくとも、サイト内で悪口を言っている人よりも、長く私と過ごしているはずなのに、彼らは私自身よりもそのサイトを信用していたのです。
まるで、食レポのレビュー欄でレストランを選ぶときかのように軽い気持ちでです。
裏サイトの影響は、会社に留まりませんでした。普段使っているコンビニや、お弁当屋さん、スーパー......。いつも利用しているお店の大半の店員さんが、私を見るなり、蔑むような目で見てきたり、するわけもない万引きを疑われもしました。
それもこれもあの裏サイトのせいです。
さらに会社では、サイト評から始まった無視行為が加速していきました。仕事を振り分けてもらおうと、懇願しても避けられてしまい、仕方なく他のことをしていると違うことはするなと言われたりして私は、初めて人に怒りをぶつけました。
すると、余計に私に対する評価は下がっていく一方で耐えられませんでした。私は、追われるように仕事をやめました。家もアパートから、実家へ戻ることにしました。
避難するように、実家へ戻ってきましたが裏サイトの毒牙は家族にもかかっていました。ですが家族もまた、裏サイトでの私の評価を見て私を批難するのです。私は命からがら会社から抜け出したというのに、ひどい仕打ちでした。
もう私の居場所はどこにもないのだと痛感しました。その後、何度も再就職をしようとしましたが裏サイトのせいで不採用になっていくばかりでした。本当に気が狂いそうでした。
実家に戻って1年、転職活動をして気を紛らわしていたある日、電車に乗って帰っていると車両内で複数の視線を感じました。誰もが私に注目しているような感覚があって、うつむいていた私は思わず周りを見渡しました。
すると、男性も女性も分け隔てなく私を避けるように視線を戻すのです。ですが、小声で私の名前を呼んでいるのです。すぐ隣にいた、会社帰りのおじさんは聞こえるように私の名前と、バカやアホなどの稚拙な暴言を吐いてきたのです。
さらには、痴漢の犯人を見つけたかのように40代の女性の方が、私に対して不快だから降りろと言い出すのです。なにもしていないと、反論すると何もしていないことが悪いとわけのわからないことを言い出しました。
それに対して、車両に乗り合わせていた全員が、正論かのように拍手喝采するのです。その時の光景は、遠くへ行った今でも忘れられないでしょう。
私は、嫌気が差して実家の最寄り駅より2つ手前で降りるはめになりました。もうここでは、私の心には限界が来ていました。駅から改札まで誰にも見られないように降りて、外に出ました。
すると、ちょうどいいところに川と橋があったのです。
私はそこでこの話をまとめることにしました。みなさんにも、このことを知ってほしいと思ったからです。一番に恐ろしいことは、人を死に追いやるほどの他人からの誹謗中傷であると言いたかったからです。
そしてすべてを書き終えた後、私は靴を脱いで橋から飛び降りました。
最期に、ここまで読んでくれた皆さまありがとうございます。
――そして、さようなら。
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