監獄ホテル
これはここだけの話なのですが、私には人にいいにくい性癖を持っております。それは、他人に凌辱されることです。つまるところ、私はドMです。私は、その性癖への探求心のせいで、恐ろしい体験をしました。とても、読むに堪えないこともあるかもしれませんがご容赦下さい。
これは、私が3か月前の連休で旅行へ行ったときのことです。ボーナスも入ったこともあり、行きたかったホテルへ行くことにしました。その名も『監獄ホテル』です。元々は旧帝国軍の刑務所として使われていたのですが、新たな観光素材としてホテルとして改装されたそうです。そのホテルではちょっとした体験ができるのです。それが囚人体験と、拷問体験です。囚人体験は、文字通り、ホテル内で用意される衣服や料理が、当時とほぼ同じものに再現されて提供されるサービスです。拷問体験は文字通りではなく、拷問房にて少しきつめのマッサージが施術してもらえるようです。
こちらとしては、リアルな拷問を期待していたのですがそういうわけにもいかないのでしょう。それでも私は囚人体験と、拷問体験の両方と1泊分の予約を取りました。予約が取れた時は、かなり喜びましたし夜も眠れなかったです。
さて、日は空いて旅行当日。私は朝から車を出して、ホテルへ向かいました。片道約2時間ほどでホテルのある場所へとたどり着きました。ホテルの駐車場に停めて、入り口から入るとホテルの従業員が警官の恰好をして受付をしていました。雰囲気は、本当の監獄のようです。私は、意気揚々と受付を済ますと、受付にいた従業員がスマホを預かりますと言って来た。なんでも、囚人体験コースは、あらゆる娯楽を撤廃するというコンセプトらしいのです。私は、二つ返事でスマホを従業員に渡した。代わりに、従業員は私に『17509』という番号の付いたプレートと、部屋の鍵を渡してきました。番号プレートは記念写真用と部屋の玄関に付ける用だそうで、私は囚人服に着替えて写真を撮りました。もちろん、最大限の笑みで。そして、従業員に誘導されるまま、部屋にプレートを掛けて部屋に入りました。
部屋の中は、娯楽を撤廃したといううたい文句をそのままに、コンクリートの床と麻布の敷布団、さっき付けたような壁かけ時計のみ。窓は小さく鉄格子に覆われ、外も見えないほど高い位置にありました。空調器具はないものの、冷暖房が効いているだけマシというものでした。
私は、固いコンクリート床を触り、興奮冷めやらぬうちに布団でゴロゴロしました。この固さこそ嗜好だと、私の中のボルテージは最高潮でした。しばらくごろごろして、壁に掛けてあった時計を見ると9時30分くらいでした。チェックインしてまだ30分も経っていません。こういう時は、他の観光地に行ったりして遊ぶものですが、私は囚人ロールプレイを徹底的に楽しむため、観光スケジュールは立てていません。というか、このホテルが建てられた地域の観光スポットの情報もカットしたほどです。
しばらく目を瞑って時間を潰していると、ようやくお昼の時間になったのか見回りに来た従業員が起こしに来ました。もちろん、番号で呼ばれますし、乱雑に起こしていいとも言ってありましたので、足で起こされました。とても感動しました。従業員の誘導の元、食堂へ向かうと銀のトレイと白いプレートを渡されました。プレートの上には、小さなロールパン一つと、カットされただけのニンジン数個、申し訳程度にこじんまりと乗ったハンバーグがありました。そして、別の器には味の薄そうなコーンスープが盛り付けられました。スプーンを取り、席に着くととてもみじめな気持ちになりました。同時に、これでいいのだという多幸感に包まれました。ですが、食事の時間帯は決まっていたので、早めに食べなければなりませんでした。それが少し苦痛でもありました。
食事が終わり、また自分の宿泊部屋もとい独房に戻りました。せめて机や椅子に髪とペンさえあるタイプの独房にすればよかったと半ば後悔しつつも、まだ私は正気を保っていました。やることもなく、拷問体験コースの時間まで目を瞑りました。大体、1時間と少しくらいすると、ドアの開ける音がしました。すると、別の従業員が拷問体験の誘導のためにやってきました。その人は、私に手錠をかけて、部屋まで引っ張るように誘導してきました。男の人だったのが少々残念でしたが、痛みに変わりはないので満足していました。
拷問体験のため、新たな房へ入るとそこには施術用のベッドと、世界中で使われていた拷問器具のレプリカが置かれていました。多くの人は悪趣味と言うでしょうが、私は興奮しっぱなしでした。興奮状態の私が施術用のベッドに寝転がると、医師がやってきてツボマッサージを行いました。激痛はありましたが、体の巡りが良くなるのが肌で体感していったのが最高でした。さらに、医師は私に極上のコースがあると言ってきたので、やってほしいとお願いすると医師が奥へ行きました。
すると、突然医師の代わりに軍服の男がやってきて、私に目隠しと猿轡をつけてきました。この時点で、少し違和感はありましたが、いつもやっていることなので気にしませんでした。さらに、男は私を縄で縛りつけました。オーソドックスな亀甲縛りです。私はさらに興奮していると、男はその縛り付けられた縄で私を宙に浮かせたのです。目隠ししていても、私が宙に浮いていることくらいは肌感覚でわかりました。さらに軍服の男は、私に筆舌しがたい罵詈雑言を投げかけながら、ぐるぐると回して遊びだしました。これまでのことが、子供のごっこ遊びだったかのような本格的なプレイに私は気を失いかけました。
しばらくすると、宙吊り状態から降ろされて、縄をほどき、目隠しがとれました。軍服の男が私をほどき、そのまま彼の誘導の元、棒を突き立てられながら私は独房に戻りました。これも一種のロールプレイだと思い、気にも留めずに夕食まで独房ですごしました。
夕食も昼食と同じメニューで、少し飽きと怒りを感じながらも、やっと私は自分の時間がとれたと錯覚しながら布団の上で一人、物思いにふけていました。硬いコンクリートに寝付けず、財布を取り出して受付近くにある自動販売機へ向かうと、突然コツコツ......という革靴のような足音が聞こえてきたのです。ですが、周りには人はいません。さらにいうと、受付にも誰もいませんでした。妙な雰囲気を感じ取りつつも、自販機でコーラを買って部屋に戻ろうとすると、またコツコツという音が聞こえてきたのです。しかも今度は、懐中電灯のような光も見えたのです。その方へ少し歩くと、こちらを見つけたかのように足音が早くなってくるのです。
私は少し、怖くなり後ずさりするのも束の間、懐中電灯の光が強くなっていきました。そして、急に耳鳴りがしたかと思うと、17509番が脱獄したぞ!という怒号のような声が聞こえてきたのです。さらに、脱獄者を制裁せよ!という言葉と共に、多くの軍服の男が私に攻めよってこようとしたのです。私は、構わずに走って自分の部屋に戻りました。ドンドンドンドンというドアを叩く音は鳴りやみません。手を震わせながら落ち着かせようと手元のコーラを開けたと同時に、さらにドアを叩く音が強くなりました。私は床にコーラを置いて、耳を塞いで静かにしていました。すると、ドアを叩く音が止み、男の姿も消えていきました。息も絶え絶えに、コーラを一気飲みし、私は眠りにつきました。
翌朝、チェックアウト時に昨日のことを話すと、夜に巡回していることはない。また、受付は夜でも稼働していたと言われました。私はゾッとしながら、さらに拷問コースでのできことを話すと、その従業員の人から笑みがスッと消えました。そして、従業員は『あー、それね。よくあるんですよね』と軽く言ったきり、私になにも言ってくれませんでした。
結局、あの軍服の男は誰だったんでしょうか。
今も、あの男の顔にあった生々しい傷が、脳裏に焼き付いています......。
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