ピーカーブー!

 『ピーカーブー!』っていう海外の児童向け番組があった。昔の俺は、日本の児童向け番組やアニメなんて見ないで、そればかり見ていたと母親から聞かされていた。それから自分自身が親になって、この番組のことを思い出して、先日レンタルショップで借りた。でもそれが、間違いだとは思っても見なかった。


 レンタルショップ自体かなり久しぶりで、DVDの借り方さえおぼつかなくなりそうになりながらも例のアニメのビデオを数本借りた。帰り道、保育園にいる息子を迎えに行き自宅に戻った。そしてその日のうちに、息子と共に俺はテレビの前に座り、そのDVDを見ることにした。


 テレビの画面には俺の見慣れたキャラクターが映っていた。うさぎの『ピー』、子猫の「カー」、そして子グマの「ブー」の3匹だ。いや、人のように二足歩行でいるから3人と呼ぶ方がいいのだろうか。そんな3人が、料理ごっこをしたり、お昼寝したり、時には物を数えたり、学んだりしている。文化の違いや言葉の違いはあれども、よくある教育番組という感じだった。息子は、それを飽きずにくぎったけだった。やはり、血は争えないかと思いながら俺は、テレビに息子のお守りを任せて晩御飯の準備をした。


 その日は、息子と共にDVDを見てから眠った。それから数日は、息子は家に帰るとすぐにピーカーブーを見せてくれとせがむようになった。俺も、昔の記憶がよみがえり、すぐに再生した。数分も立たないうちに、晩御飯の時間になって俺が席を立った瞬間、テレビの前のピーが息子にひそひそと話しているような感じがした。だが、俺は演出かなにかだろうと、気にも留めなかった。


 ところが、ある日晩御飯の準備が整い、いざ息子に声をかけようとリビングに顔を出すと息子がいなかった。俺はトイレを確認したり、風呂場を覗いた。だが、息子は見当たりませんでした。さらに、寝室の引き戸をあけるも彼は布団にもいなかった。

俺は慌てて外に出て、マンションの廊下を右左と見回した。だが、息子がどこに行ったかわからない。俺は急いで、1階までエレベーターで降りて見た。すると、俺の妻が息子を抱えて1階で立ち止まっていた。妻がどうやら1階でぼうっと突っ立ってる息子を見かねて一緒に中に入ってこようとしていたらしい。


 俺はホッとしながらも、息子に詰め寄るとフワフワとした声で『ピーが一緒に出掛けようって言ったから』と言い出した。俺は、少し不思議がりながらも、その日は特に気にせず就寝した。


 また次の日、息子を家に連れ帰ると、息子は無言でDVDを入れて見始めた。しかも自分で......。俺はその操作を教えていないのに、いつ覚えていたのかわからない。

そして、急にテレビが暗転したかと思うと、ピーとカーとブーがこちらを向いて、奇妙な笑い声で笑いながら、変な歌を歌っていた。英語でも日本語でも聞き取れないような、意味不明の歌詞だった。字幕も全部文字化けしていた。俺は、変だと思って再生停止ボタンを押した。だが、その歌は止まらない。DVD取り出しボタンを直接押しても反応しない。


テレビの前で操作をしていると、ささやくような声が聞こえてきた。最初は何を言っているのかわからなかったが、だんだんと鮮明になり始めきていた。







この5文字が、この順番で何度も何度も聞こえてきた。「death」つまり、死ということだ。瞬間、俺は嫌な予感がして振り向くと息子が、窓を開けていた。うちは10階建ての8階にあったので、相当高い位置だった。だから、俺は飛び跳ねそうになる心臓を押さえつけながら窓の外の鉄格子に手を出す息子を抱えて部屋の中に入った。


 その後、びっくりしたのか息子は泣き出してしまった。俺は、彼に謝りながら機嫌を直しに外の公園で少し遊ばせた。そうしていると、妻が帰ってきたのが見えて一緒に戻ることにした。


 家の中に入ると、テレビには、あの3人が無表情でこちらをジッとこちらを見つめている状態で固まっていた。さらには「おまえを見ている」という文字が、彼らが住んでいる部屋の壁に赤色で書かれていた。。俺は震えながらDVDを取りだして即座にレンタルショップに返しに行った。


 その後、あの番組は見ようともしていないし、今では子供も妻も忘れかけている。だが、俺だけはあの「D、E、A、T、H」という擦れた声が耳に残っているし、時折、あの三人がどこかで見ているような気がしてならない。ピーカーブーはあんな番組だったのだろうか。それとも、俺はまったく違う何かを借りてきてしまったのだろうか......。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る