第36話 見通す力



 頭が痛い。自分のものではない記憶と思わしきものが大量に流れてきた。脳がパンクしそうだ。少しフラっとすれば、目の前にいる彼が支えてくれた。


「今のは」


 私がそういえば、彼は青ざめたような顔をしていた。


「いま、君は何をした」


 そう私から手を離した後に聞いた。何をしたと言われても、魔法を使ったとしか言えなかった。それよりも、私も彼に聞きたい。


「私は今自分に害があるものを全て反射する魔法を使いました。そうしたらいきなり、何かが」

「僕の力が効かなかった、君に。君の過去を覗かせてもらっていた。だが、急に暗くなり何も見えなくなっていた」


 それは、リフレクトが効いたということなのか。確かにリフレクトは魔法以外も、全て反射する。だから、原理不明の力を反射できたのだろう。多分、その力を反射すると反射されたものの記憶が見えてしまうのだろうか。


「私、あなたの記憶らしきものを見てしまいました」

「――どんなもの」

「色々な人に見通す力を使っていました。すごく気持ち悪いと。見たくない、そう感じました」


 きっと、逃げたいと思っていたのは彼の感情のせい。彼が見ているのはきっと謁見に来ていた貴族や他国の使者。力を使って信用に値するかを決めていた。見たくないものを見ることを皇帝に命じられていた。


「そう。僕はベルナール、覚えておいてほしいな。カゲ」

「あ、まって、私はまだあなたに――」

 

 「カゲ」と呼ぶ彼。「カゲ」と呼んでしまえば、私はきっとあの子たちのようにあるべき場所に返されてしまう。まだ、彼に聞きたいことがあるのに。そう思い抵抗はしたけれど、一瞬で彼が消えてしまった。と思えば、目の前に泣いているルリがいた。あぁ、変な場所に移動させたなぁ。そんな目の前にやらなくても。


「ルリ」


 地面に倒れ込んで泣いているルリに声を掛ければ信じられないといった表情をされる。


「リュシエンヌ様ぁ?」

「うん。私はリュシエンヌ・フロライン。間違いないわ」


 そういえば一度止まった涙がまた溢れ出した。いきなり消えてしまったからだいぶ不安にさせてしまったみたいだ。事情を話さなければいけないけれど、今は疲れたから最初に寝たいかな。


「心配させてごめんなさい、事情は明日の馬車の中でもいい?今はすごく疲れていて」

「は、い」


 ずびずびと鼻を啜りながら、ルリは立って歩き始めた。


「本当に心配したんですからね!」

「うん」

「もう戻ってこないかと」

「うん、ごめんね」

「明日、絶対話してもらいますから。ではお休みなさいませ」


 もう宿屋に着くまでずっと小言を言われてしまった。耳にタコができそうなほどに。でも、それほどまでに心配させてしまったんだ。彼と話す前に一度戻るべきだったな。私だって瞬間移動使えるし。それにしても彼、ベルナールって言っていたっけ。リベリオン皇族でベルナール、か。きっと皇子なんだろうね。皇族直系なのか傍系なのかは知らないけれど、きっと私とは比べ物にならないほどの地位にいるのだろう。あれ、私そんな人相手に話していたけれど、失礼とかなかったかな。大丈夫だっただろうか。一度気になり出したら止まらなくなってしまった。きっと大丈夫だっただろう、そう思って無理やり寝付くことに成功した。

 

 

 

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