第32話 馬車の中で
私の誕生日を一ヶ月後に控えたまま、私はフロライン公爵邸をたった。8歳になる誕生パーティーはやらないことにした。時戻り前の8歳の誕生パーティーは散々なものだったのを覚えている。去年と同じく公爵夫妻は颯爽とパーティー会場を後にした。その理由は、「リリアが心配だから」だ。きっと今回も、同じ理由で帰ってしまうだろう。ならば開催しないのも一つの手だろう。パーティーをしないと聞いたルリはとても驚いていたな。まぁ、今も前で愚痴を垂れているのだけれど。
「リュシエンヌさまぁ。なぜ誕生日を迎えてからにしなかったのですかぁ」
「パーティーを開いてもいいことが全くないからよ」
「それでも新しいドレスを身につけるリュシエンヌ様見たかったですぅ」
もう、その理由を何度聞いたことだろうか。そんなに私に違うドレスを着させたいのだろうか。
「わかった。お小遣いは銀行に預けてあるし、向こうで新しいもの買いましょう」
きっとドレスまでは行かなくても、庶民的な服を買ってみようかな。そういえば、タルト子爵領は海に面していたはず。初めての海になるのか。機会があったら浜辺にも行きたいな。
「楽しみだね、ルリ」
「そうですけど、まだまだですよ?一週間かかるんですから」
そうだ、一週間かかるんだった。うん、一週間ずっと移動するって結構大変だよね。そのうち腰がダメになりそう。道が整備されているからそこまで振動はこないけれど、一週間はちょっとしんどいかも。
「そろそろお昼の時間ですね。確かこの先泊まる予定の宿屋まで何もなかったはずですからついでに何か買っていきましょうか」
「そうしよっか」
朝公爵邸を出て、三時間ほど経った。もう太陽はてっぺんで私たちのことを照らしている。ルリに連れられ入った店で私は、サンドウィッチを食べた。そこで馬車の中で食べるためのお菓子もいくつか買った。タルト子爵領につくまで、一週間もあるんだしそれに色々な街を通るんだ。予定では、寄り道をしなければ一日早く着く速さで今向かっている。なら、一日ぐらいどこかの街で散策したいな。
「ねぇルリ。私どこかの街で散策したいのだけど、どこがおすすめ?」
「そうですね、子爵領に近いネプトなどどうでしょう」
ネプト、確か水の都と言われる街だったはず。海沿いでは一番栄えている街で、漁業が盛んである街。ネプトからであればタルト子爵領は4時間程度で着いたはずだし、万が一アクシデントがあったとしても予定の日には間に合いそう。
「うん、いいかも。ネプトによることを伝えておいてくれる?」
「はい、かしこまりました。私も楽しみなんですよね。海は初めてですから」
ルリは目を輝かせている。確かに王都は内陸側にあって海に行こうとしたら時間がかかるので滅多に行けるものではない。馬車で時間がかかるということは、それなりに費用が必要になる。かなり限られた人しか旅行で海にはいけないだろう。
「楽しみだね、ルリ」
私は初めての海に胸躍らせながら馬車に揺られたのだった。
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