第9話 街に出かけよう
「本当は僕が馬車に乗る際のエスコートをしたかった」
街に着くまでの馬車の中でアルはずっとそう言っていた。馬車に乗る際のエスコートはアルではまだ身長が足りなかったため、従者がしてくれたのだがどうやらそれがすごく気に食わなかったみたいだ。
「いずれできますよ」
そういうと少し不貞腐れながら黙り込んだ。こんな表情を見るととても6歳のようには思えないけれど、でもしゃべると私と精神年齢が大差ないように感じるんだよなぁ。きっとこれが王子様ってやつなのだろう。さすが王子に施す教育は違うなぁ。
「アル、私たち普通の格好で来てしまいましたけれど街の中で異端になりませんか?」
「大丈夫、これから認識阻害の魔法かけるから」
認識阻害魔法も使えるの!?本当にすごい人なのかもしれない。アルに魔法を教えてもらえないだろうか。今度頼んでみよう。
「殿下、フロライン公爵令嬢。街に到着いたしました」
いつの間にか街まで来ていたみたいだ。従者が扉を開け私を下ろしてくれる。なんか後ろからの視線が痛い気もするが気にしない。周りにいっぱい人がいるが一切私たちのことを見ている人はいない。もうすでに認識阻害魔法をアルがかけたみたいだ。
「二時間、二時間後ここに戻ってきてください。護衛はつけさせていただきますが、万が一はぐれた場合は真っすぐにここに戻ってくることをお約束ください」
「わかりました。では行ってきます」
後ろに三人の護衛騎士をつれ私たちは街に溶け込んでいった。
認識阻害とはいっても完全に見えなくなるわけではなく、大多数の一人として見られるみたいだ。その証拠に今だって屋台のおじさんに話しかけられている。
「嬢ちゃん、別嬪さんだねぇ。おまけつけるからホーンラビットの串焼き買ってかないかい?」
「リュシーに近づかないで」
そして、私が話しかけられると必ずアルが牽制をしてくる。そんな護衛みたいなことしなくていいのに。それにしてもホーンラビットの串焼きか。ルリが言ってたっけ。
「私いっつも街に出るとホーンラビットの串焼きを買っちゃうんですよ」
「そんなに美味しいの?」
「公爵邸のお料理とは比べ物にもなりませんが、とても美味しいですよ。ぜひリュシエンヌ様も街に出られたらお召し上がりになってくださいね!!」
うん、そんなこと言われてたっけ。約束してたし一つ買ってみよう。街に出ることも、屋台で何かを買って食べることも初めてだから緊張するな。
「で、では一つお願いしてもいいですか?」
「リュシー?」
「せっかくだし、食べてみようかなって思いまして。街をただ見て歩くのも楽しいですけれど、私この匂いでもうお腹減ってしまいました」
「わかった」
アルはそういって後ろの護衛騎士に目配せした。きっとその方がお金を持っているのだろう。銅貨を4枚取り出した。銅貨4枚か、安くもなく高くもなくって感じだろうか。
「はい、お待たせ、味わって食べな?まいど!!」
私たちは一本ずつ持って近くにあったベンチに座った。タレの香ばしい香りがする。とても食欲をそそる香りだ。それにホーンラビットのお肉にそのタレが輝くほどにかかっている。
「いただきます」
思い切って一口齧り付く。歯応えがあるけど噛めば噛むほど肉汁が溢れ出てくる。気がつけば口の中からなくなっていた。次々と食べられるほどさっぱりとした味だ。ふと隣を見るとじっと私を見てくるアルがいた。王子としてこういう食べ方はしたくないのだろうか。
「アルは食べないの?」
「食べるよ、でもまずはリュシーの食べる表情を見てたかったんだ」
そういうと手に持っているその串ではなく私の食べかけの方に齧り付いた。
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