第23話 アルの記憶と生贄


 そう淡々と話した。レオン様ほどの実力者が力を暴走させたとしたら、きっと国一つは滅ぶだろう。信じられないと思っていた。のに、その証拠を見せつけられてしまった。


「第三王子がそうなっているのが何よりの証拠だ」


 レオン様にそう言われ座っているアルの方を見る。顔を真っ青にしていた。レオン様の力が暴走したこと、そしてアルが記憶を持っていること。それを明確にされた。


「ある?」

「ごめんリュシー。隠しているつもりはなかった」

「謝らないで、レオン様が言っていることは本当なの?」

「そうだよ。ブルーゲンベルク殿はリュシーが死んだことを知ると、正気を失い真っ先にフロライン家を皆殺しにしました。僕もブルーゲンベルク殿によって命を落としてしまったのでそのあとのことは当人にしかわからないことだらけです」


 今の状態のアルが嘘をついているとは思えないし、演技だとも思えなかった。だから、問答無用で実際に起こったことだと信じさせられた。そのまま何も言えずに、黙っていると、「はい」と言いながら手をあげた人がいた。


「あ、あの。皆様がおっしゃっている意味がわからないのですが。リュシエンヌ様が死んだってどういうことなのでしょう」


 ルリだった。四人のうち三人が記憶を持っているため、私が死ぬことを前提として話してしまっていた。それは混乱するだろう。ルリに一から話し始めるべきだった。


「ごめんルリ。私、実は一度死んでいるの。多分いきなりすぎて理解できないと思うけど」

「全く理解できないです。リュシエンヌ様は今生きているじゃないですか」

「うん。今は生きてる。死んだけれどレオン様が時を戻したからまだ生きてる」


 は?とでも言いたげな顔でルリは見てくる。ごめん、本当に。でもそうとしか説明しようがないんだ。


「と、とりあえずどうしてリュシエンヌ様は死んでしまったのですか?」

「自分で言うのも恥ずかしいんだけどさ」


 私は全てを話した。二人の愛が欲しかったこと。妹、リリアにひどく嫉妬して手を汚したこと。ルリは一緒に捉えられて私の前で死んでしまったこと。全て。ルリは何も話さずにじっと私の話を聞いてくれた。そして話終わった後、何も言わずに抱きしめてくれた。


「一ヶ月前、私が急に変わった日があったでしょう?あれが時を戻ってきた日なの」

「急に牢屋がどうのっていう話をした日、ですね。確かにあの日からリュシエンヌ様は変わられました」


 少しずつだけれどルリは今の状況を理解していっているみたいだ。いきなりこんなこと言って本当にごめんなさい。それはそうと時戻りについてもう一つ問題がある。


「レオン様、時戻りをする時。あなたの命と誰の命を犠牲にしたの」


 時戻りの魔法。禁忌とされているのはその魔法を使った本人が命を落としてしまうのはもちろん、生贄が必要になるからだ。戻す時間によって必要になる生贄の数は変わる。これも全てレオン様から教えてもらったことだ。本人と一人で5年。生贄を二人にすれば10年。だからきっとレオン様は二人を犠牲にしたはず。不本意だが一人はおおよそ察することができる。きっと、アルを犠牲にしていたのだろう。でも、あと一人は?


「俺が教えたこと、しっかりと覚えているんだな。そう俺は10年時を戻した。だから二人を犠牲とした。一人はそこにいる第三王子。一人はリュシエンヌの妹、リリアだ」

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