第41話 意味

「リュシエンヌ様?夕食の場で何かありました?」


 私は、そのルリの声で現実に引き戻された。どうやら、すでに夕食は終わっており部屋に戻ってきていたらしい。そして、ルリの表情を見れば、私が長い間ぼーっとしていたことは明らかだった。


「ごめん、なんでもないの。ただ気になることがあってね」


 私の頭の中にあるのは、変わらず夫人のあの言葉。私がそういえば、ルリはなんでも言ってほしいと言った目で訴えてくる。一度、ルリに話してみるのもいいかもしれない。


「あのね、子爵夫人に大切な孫って言われたの。どうしてだと思う?」


 私が真剣な表情で話せばルリはフッと優しく笑った。


「私にはそのままの意味に聞こえますよ」

「え?」


 顔を上げればいつの間にか近くにルリがいた。


「リュシエンヌ様はターニャ様の一人娘であり、子爵様たちの唯一の孫なんですもの。それは大切に思うものですよ」

「でも、閣下と公爵夫人は」

「そのお二方が異常なだけです」


 ルリの答えを聞いても頭の中は一向に曇っている。わからない。なぜ、私があの人たちに大切に思われているのかが。


「悩むのであれば今からでも聞きにいきましょう」


 頭を抱える私にルリは笑顔でそう言った。


「さぁさぁ、執務室までご案内します」


 ルリは嬉々とした表情で私を急かす。混乱していればいつの間にやら、子爵邸の執務室の前まで来ていた。


「では、私は先に部屋に戻っておりますね」

「え、ちょっと」


 ルリは私の話に聞く耳を持たず、去っていってしまった。どうしよう。ルリに流されてここまで来たはいいけれど。部屋に入ったとして何を話せばいいの。急にきて迷惑だと思われないだろうか。それに、わざわざ聞くことでもない気がしてきた。うん、本当に聞きたかったらもう一度来ればいいし。今日は部屋に戻ろう。そう思った時だった。目の前の重い扉が開いた。


「あら、フロライン様」


 部屋から顔を覗かせたのは、夫人だった。夕食後も一緒に仕事をしていたのか。閣下と公爵夫人はそんなことしていなかったのに。いやいや、着眼点はそこじゃない。この部屋の前に居たということを目撃されてしまったのが問題だ。ここからどうしよう。視線を泳がせていれば奥から子爵もやってきてしまった。


「どうした、ダリア……フロライン様、どうしましたか?」

「え、っとあの」


 二人に用があったとも言えない私はしどろもどろになる。そんな私を見た夫人は、パンと手を打った。


「フロライン様がよかったら、ティータイムにしません?私たちはもっと話す必要があると思うの」


 私は嬉しそうにこちらを見る夫人を断ることができなかった。入る際に少し触れた執務室の重たい扉は案外軽かった。

 

 

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