第39話 ティータイム

「わぁ、リュシエンヌ様のお部屋素敵ですね!リュシエンヌ様の髪のお色と瞳の色ばかりですね!」


 ルリは私に用意された部屋に入りそういった。私はその一言で気づいたのだ。


「そっか、この部屋私とお母様の髪の色と瞳の色なんだ」

「気づいていらっしゃらなかったのですか?」


 ルリの言葉に頷けばルリは目を見開いた。道理でこの部屋が落ち着くのか。私はこの髪と瞳のせいで閣下や公爵夫人に強くあたられてきたこともあった。だがそれでも唯一のお母様との繋がりであるこれらは嫌いになれなかった。むしろ好きに近い。だから、この部屋はとても落ち着くのだ。そういえばキトはターニャ様が好んでいたものと同じように用意した、と言っていた気がする。ならば、お母様もこの髪と瞳を気に入っていたのだろうか。そうだったら嬉しいな。


「ルリ、あなたも一緒に食べない?」

 

 私が考え事をしていれば、ルリのティータイムの準備は続々と進んでいった。どうやらルリの分までもケーキをもらっていたらしく皿に分けても1つピースが余っていた。あとできっとルリは食べるのだろうけれど、せっかくなら一緒に食べたいと思いそう提案した。ルリは満面の笑顔で了承してくれた。


「チョコケーキなので紅茶はウバがいいよとおすすめされまして」


 ルリはティーカップに紅茶を注いでいく。ウバという紅茶は初めて聞いたけれど、とても独特な香りがする。ルリが注ぎ終わったティーカップを私の前に置く。


「とても綺麗なオレンジ色ね」

「ウバは赤みの強いオレンジ色が特徴的、らしいですよ。それに渋みが少し強いみたいなんです」


 う、渋みか。紅茶は好きなのだけれど渋いものは少し苦手なんだよね。顔を顰める私の前にルリは嬉々として座る。


「頂きましょうか」


 私がそう一言言えば、待ってましたと言わんばかりにケーキにフォークを刺した。そして、口元に運び頬張った。


「〜!」


 とてもおいしかったようだ。ルリは目を輝かせて、私にも食べるように促してくる。軽く笑いながら私も一口食べた。


「美味しい」

「―!そうですよね!」


 ルリは共感してもらえて嬉しそうだ。こんなに美味しいものは初めて食べたんじゃないかって思うぐらい美味しかった。濃厚なチョコレートケーキを食べ進めれば当然口がもったりとしてくる。そこでウバを飲んだ。渋みがあったとしてもあまり長引かず、すっきりとした味わい。濃厚なチョコレートケーキととても合っていた。


「これは、とてもいいものを教えてもらっちゃったね」

「本当ですね!」

「今度はお店に行ってみよう。人気だから入れるかわからないけどね」

 

 ルリは口に含みながら頭を上下に振った。そして、咽せた。


「だ、大丈夫!?」

「大丈夫です、ごめんなさい」


 私はルリに近寄って、背中をさすった。口に含んだままそうするからよと軽口を叩けば、へへっとルリは笑った。大丈夫そうなのを確認して私は元の席に戻った。


「ティータイムが終わったら、荷解きをしなければね」

「そうですね」


 普通の令嬢に比べれば量は少ないが普通に荷解きが大変な量を持ってきた。夕食の時間まではゆっくりしていられなさそうだなと遠くを見つめながらも、今の優雅なひと時を楽しんだ。

 

 

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