第2話 愛なんてもう求めません


 もう二度と来ないと思っていた。だけど目覚めは私に引き起こされた。


「リュシエンヌ様、起きられたのですね」


 部屋のカーテンが開けられ、太陽の光が差し込む。ずっと牢屋の中にいたからとても久しぶりだ。それに、なぜだか体が小さいように感じる。


「おはようございます、リュシエンヌ様。今日も私、ルリが朝の準備を手伝わさせていただきます」

「ルリ?どうしてルリがここにいるの?だって私は牢屋にいるはず」

「牢屋?何を言っているのですか?牢屋は罪人が入るところですよ?」


 ルリは私と一緒に捕らえられ、先に亡くなってしまったはず。なんでルリが生きているの。いや私だって首を刎ねられて死んだはず。それにここだって牢屋じゃない。そうだ、今何年?私が死んだのは確か月歴652年だったから。


「ルリ、今何年?」

「本当にどうしたのですか?今は月歴642年ですよ?来月はリュシエンヌ様の誕生日じゃないですか」


 10年時が戻ってる。ということは私は今6歳で来月7歳になる。どうして時が戻っているの?私が願ったからってわけではないでしょう?


「リュシエンヌ様〜ベッドから立ち上がってくださらないと準備が進まないんですが…。公爵様との朝食に間に合いませんよ?」

「お父様……そうね急ぎましょう」


 そうだ。まだリリアが生まれてない頃は少しのわがままを聞いてもらっていた。朝一緒に朝食をとるというのも私のわがままの一つだ。一緒に朝食を取れば少しぐらいは仲が改善されると思って。




 まだ、時が戻ったことに実感はないけれど戻ったのであれば、両親の愛に固執しないって死ぬ前にきめたんだ。なら、愛されるためにしていたこと全てやめてみよう。そう、戻ったのであれば変わらなきゃ。同じ結末なんて絶対に嫌だから。



「おはようございます、閣下」


 私は、あえてお父様のことを「閣下」と呼んだ。とても驚いているのが表情から読み取れた。私、あなたのこともうお父様なんて言いたくない。あなただってきっと私にお父様って呼ばれるの嫌だっただろうからやめてあげます。


 挨拶は返ってこない。知っている。これは何度もやられていたから。そのまま無言で私は席につき黙って食事をする。ただただ味のしない塊を飲み込む作業になってしまった。料理長にとても申し訳ないけれど、後で吐いてしまうかもしれない。前までは、唯一のお父様と食事の機会だったけれど今ではもう苦痛でしかない。私はフォークを置きナプキンで口を拭いた。もう食事を終わりにし部屋に戻ろうと思ったのだ。



「閣下、もう私と朝食は取らなくて結構です。今まで私のわがままに付き合わせてしまい申し訳ありませんでした」


 私はそう一言言って部屋を出た。去り際に気になってみた閣下の顔はとても傑作で少し笑ってしまった。


「どうしたんですか?リュシエンヌ様、いつもなら公爵様が食べ終わるまでずっと一緒におられたじゃないですか。それに「閣下」だなんて」


 ズカズカと廊下を進む私の隣をすんなりついてくるルリがたくさん質問を投げかけてくる。きっと昨日までの私との豹変ぶりに驚いているからだろう。


「私、愛をくれない父親なんて必要ないって気づいたの。それだけの話よ」

「ええぇぇええ」


 とても間抜けな声を出しながら、ついてくるルリがおかしくて少し笑ってしまった。





 私はここから少しずつ変わっていくんだ。誰が時を戻してくれたのか分からないけれど、今回の人生では誰かの愛が欲しくて飢え死になんてしてたまるか。


 


ねぇお父様、お義母様、今回はあなたたちの愛なんて私求めません。だから、勝手にあなたたちはリリアのことを愛していてくださいね。

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