第37話 撫でられた
「…それで高度な魔法を使える方に助けてもらったの。だから今頃あの闇オークションに協力していた人たちは全員捕まっているよ」
宿屋を出てタルト子爵家に行く間の馬車の中。私はルリに事の顛末を教えていた。リベリオンの皇族にあったということは伏せて。終始信じられないといった顔をしていたけれど、最後には私が無事戻ってきてくれてよかった、ということに落ち着いた。
「ネプトにはまた行こう、嫌なまま終わりたくないしね。それに時間はたくさんあるんだから」
「そうですね、リュシエンヌ様」
そういえば、なんでベルナードはわざと誘拐されていたのだろうか。囮になると言っても帝国の皇族がするべき役目ではないと思うのだけど。そもそも今回の闇オークションの場所はブラッドリー王国領。リベリオン帝国領ではないから、リベリオンの皇族であるベルナードが関わってくることではないのでは。あぁもうわからない。王族とか皇族が考えることなんて一般貴族の私が考えつくことじゃないんだろうな。もうやめにしよ。それに、タルト子爵家にもうついてしまったのだから。
「はぁ、私のことをタルト夫妻は歓迎してくれるかなぁ」
そう呟きながら私は馬車を降りる。玄関に着くまでの道のりが短いはずなのに長く感じられた。一度、気合いを入れよう。
パンっ!
頬を叩き、気合を入れた。「ええぇ!?」とルリが声を上げた。
「ごめん、ちょっと気合いを入れたくて」
「前にもこんなことあった気がします……」
と少し遠い目をするルリ。ごめん、今度は気合いの入れ方もうちょっと考えるよ。少し緊張がほぐれたのではないだろうか。私はルリに扉を開けるよう命じた。重たい扉がゆっくり開いていく。隙間から見える玄関には多くの使用人と二人の男女の姿があった。
「よく来てくれましたね、リュシエンヌ様」
きっとこの優しげな夫婦がタルト夫妻なのだろう。お母様の髪の色と、瞳の色を私はそのまま受け継いでいる。お母様はきっと子爵から目の色を、タルト夫人からは髪の色を受け継いだのだろう。
「初めまして、私はリュシエンヌ・フロライン。フロライン公爵家の長女です。これからしばらくの間お世話になります」
そう頭を下げて挨拶をすれば、私の頭に何やら重みを感じた。私は驚いて勢いよく頭を上げればすぐ近くに夫人がいた。
「あ、ごめんなさい。あまりにもターニャの小さい頃に似ているものだから、思わず」
どうやら、私は夫人に頭を撫でられたみたいだ。私は訳がわからなくて自分の手を頭の上に置いた。
「私のことを撫でられたのですか?」
そう確認すれば。
「えぇ、嫌だったかしら。それだったらごめんなさい、もうしないわ」
そう困惑した表情で返された。いや、嫌ではないのだけれど、変な感じがした。ルリのことを撫でたりすることがあるから、撫でたいという気持ちになるのはわかるけれど、私はその撫でたいと思われる対象になることがわからなかった。
「いえ、撫でられたことが初めてで少し困惑してしまいました」
そう呟いた私を何やら驚いた表情で二人は見た。そして視線を交わしてからもう一度私の方を向いて微笑んだ。
「いやなわけじゃないのだったらよかったわ。ターニャが小さい頃よくこうやって撫でていたものだからその癖が時々出てしまうかもしれないの。だから、よかったら慣れてくれると嬉しいわ」
「疲れているでしょう、リュシエンヌ様。公爵邸に比べれば粗末なものですがお部屋を案内させてください、キト」
キト、そう呼ばれて出てきたのは白い髭を生やした執事服のおじさまだった。きっとこの方がタルト家の使用人を率いる執事なのだろう。
「初めまして、リュシエンヌ・フロライン様。わたくし、タルト家の執事長をさせていただいておりますキトと申します。どうぞご気軽にキト、とお呼びくださいませ。ではお部屋に案内させていただきます」
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