第30話 そして今sideアルフレッド


 

 その翌日、リュシエンヌ嬢がリリア嬢の暗殺を企てたとして囚われたことを知った。リュシエンヌ嬢の処罰は貴族を裁くにはとても早い時間で決められていった。判決は処刑。公爵に見守られリュシエンヌ嬢は首を切られたという。その判決が正しいとは全く持って思わなかった。リリア嬢の暗殺とはいっても、リリア嬢が負った怪我はかすり傷程度だというし、数年経てば傷跡も残らない傷だ。なのに、処刑だと。リュシエンヌ嬢が亡くなってから、フロライン家がおかしいと気づいたのだ。勘違いしていたことを謝る隙もなく、リュシエンヌ嬢は逝ってしまった。それを悲しむ権利は僕にはない。


 リュシエンヌ嬢が処刑された翌日、フロライン公爵邸がまるでそこで戦いがあったかのような焼き野原になっていたという。それに空には大きな黒球が浮かんでいるという報告を受けた。様子を見に行くために外へ出る。空を見上げた瞬間体に大きな衝撃を受けた。


「見つけた」


 黒球を後ろに携えながらその人物は近づいてきた。僕を見据えるその瞳はとても真っ黒で、吸い込まれてしまいそうだった。そして、とても威圧感、殺意を感じた。身動きを取れない程に。


「アルフレッドだっけ、リュシエンヌと婚約を結んだのはいつだ」


 なぜその質問をするのだろう、そう口を開きたかったけれどきっと答えてくれないだろう。この人から発される圧に、必死に抗いながら口を開く。


「リュシエンヌ嬢が7歳になる一ヶ月前」


 その言葉を聞いて、黒髪の人物は考え込んだ。次に口を開くときには僕はもう意識を失っていた。ただ最期に聞いたのは、「待ってろ」その言葉だった。





 次に目が覚めたのは、僕が7歳の時だった。しかも、リュシエンヌ嬢との婚約を結ぶと陛下に伝えられた日。そして、明後日に初の顔合わせが控えている日に。どういう顔をしてあえばいいかわからなかった。そもそもなぜ7歳に戻ってきているのかもわからなかった。だけれど、夢ではないのであれば、リュシエンヌ嬢との関係をやり直したい、そう思った。


 そして、その日がやってきた。前は、フロライン公爵と話している時、リュシエンヌ嬢はいきなり扉をあけ、公爵に抱きついた。きっとリュシエンヌ嬢は同じ行動を取るのだろうなと思ったのだが。

 

「お初にお目にかかります。アルフレッド第三王子殿下。わたくし、リュシエンヌ・フロラインと申します。これからどうぞよろしくお願いいたします」

 

 そう彼女は、綺麗にカーテシーをした。少し驚いてしまったが、近づいて挨拶を交わした。何やらリュシエンヌ嬢はフロライン公爵の方を向いている。僕もフロライン公爵の方を見れば、呆気とした表情をしていた。あぁ、だからリュシエンヌ嬢はプルプルと笑いを堪えているのだ。


 そそくさと退散していくフロライン公爵。その姿を見届けた後、リュシエンヌ嬢は、話をしようと席に座るよう促した。前とは違った彼女に少し興味が出た。そして、公爵に対しどうしてそうなったのか気になって聞いてしまった。すると、苦笑いを浮かべ「愛をくれない親なんて必要ない」といった。きっと彼女も記憶を持っているんだ、そう確信した。だけれど、話すのは今ではない気がして伝えなかった。


「やっぱりアルフレッド王子殿下の瞳、綺麗だな」


 少し雑談をした後、リュシエンヌはそう呟いた。もう一度聞けば、紛れもなく僕の瞳が綺麗だといった。僕の瞳は母様譲りで陛下たちには疎まれていた。だけれど、母様は僕の瞳を綺麗だと言ったし、唯一母様から受け継いだものだった。だから、僕はこの瞳がお気に入りだった。陛下たちは、この瞳が気に入らず何度も何度も罵られた。そのうち本当にこの瞳は綺麗なのか自信が持てなくなってしまっていた。だけれど、リュシエンヌ嬢は屈託のない表情で「綺麗」そういった。それが本当に嬉しかった。そしてすぐにリュシエンヌ嬢の虜になってしまったのだ。







 

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