第12話 誕生パーティー



「皆様、今日は私の誕生パーティーにお越しいただきありがとうございます。心ゆくまで楽しんでいただけたら幸いです」




 私の挨拶が終わると同時にオーケストラの音楽が鳴り始めた。私は一息つきながら閣下と公爵夫人の元へ歩いた。


「閣下、公爵夫人。私の誕生パーティーに来てくださりありがとうございます。いつもお忙しそうなので来て下さらないかと思いました」

「おい、リュシエンヌ」


 きっと「お父様」、「お母様」と言わないこと、余計なことを言ったことをお叱りになろうと思っているのだろう。


「閣下、ここは家ではないのですよ」


 そう一言言うと、閣下は顔を赤くしたまま黙り込んだ。一方公爵夫人は体調が悪いのかずっと黙り込んだままだ。きっとそのまま倒れてリリアを妊娠していることが明らかになるのだろう。パーティー会場でそんなことをされるのは嫌だし、早めに退場していただこう。


「閣下、公爵夫人の体調が悪いようです。一度救護室に行ってお医者様に診てもらってはいかがでしょうか。私にこの場をまかせてくれはしませんか」

「レオナ、体調が悪いのか?一度戻るか?」

 

 私と話す時とは別人のように閣下は公爵夫人に話しかける。あぁ、本当に公爵夫人を愛しているのだなそんなことを考えながらその様子を眺めていた。閣下は、公爵夫人の不調を確認した上で会場を去っていった。きっとすぐに懐妊の知らせが届くだろう。


「フロライン公爵夫妻はどうしたのですか?」

「いえ、ただ体調が悪そうなので救護室へご案内しただけです」 


 私が閣下達と話し終わったのを見てアルが近づいてきた。公の場ということで敬語に戻っている。


「そうだったのですね。でも娘のパーティーの途中退場というのはすごく体裁が悪いのでは?」


 アルは至極当然のことを言っている。そうだ。体調が悪いということで退場するのは何ら問題はない。だが、それは体調が悪いという当人だけの話。今回の場合では公爵夫人は別にいいが閣下は席を外す必要はないのではという話だ。


「あの人たちにとって、私は娘ではありませんから」


 自分でもその言葉を言っていて胸が苦しくなった。もう二人からの愛に囚われているつもりはなかったのだけれど、そのことを自覚すると何度も胸が苦しくなる。


「――それにあの人たちにはもう娘ができますから」

「どういうことですか?」

「深い意味はありません。あれほど愛し合っている二人です。すぐに娘ができるでしょう。そして私の妹となる子が」


 小さく呟いた一言はアルの耳に届いてしまっていた。咄嗟に考えた言い訳は少し、恥ずかしいものとなってしまったが怪しまれてはいないみたいだ。


「リュシーは時々そうやってどこか遠くを見ている時がありますね」

「そう、でしょうか」

「そうですよ。それに話していると6歳には到底考えられません」

「7歳です。お言葉ですがでは私と普通に話しているアルも私と同じですよ?」


 アルも自分で思うところがあるのか、すこし顔をしかめながら話すことをやめた。


「私まだ挨拶回りしていないんです。お付き合いいただいても?」 


 いつまでもぼーっとしていられない。私は私ですべきことをしなければ。今日も今日とて、あなたたち二人を陥れるために。


「もちろんです」

「そうだ、これから私は被害者面をしていきますが驚かないでくださいね」

 

 きっといきなり私が演技をし始めたらアルがおどろいてしまうとおもったから一言忠告を入れた。アルはハテナを浮かべていたけれど飲み込んでくれた。


 

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