第8話 回復魔法


「アルは昨日何をして過ごしていましたか?」


 応接室につき紅茶を侍女に入れてもらってから私は話し始めた。でも、この質問私がアルを待っていたみたいになってない?大丈夫かな?


「そうだね、リュシーと何をして過ごそうか考えてたよ」

「へ」


 私が思っていたのは、王子としての執務とか、勉強とか、読書だとか。そういうものが返ってくるだろうと思っていたのに。アルがいきなりそういうことを言うものだから間抜けな声が出てしまった。


「冗談、ですよね?」

「ううん、冗談じゃないよ。この一日、会えなくて寂しかったけれど、何をして過ごそうか考えるのもとても楽しかったんだ。初めてなんだ、何かをしてこんなにも楽しいと思えたの。ありがとうリュシー」


 なぜか、わたし感謝されてる。第三王子に。なんで?私何かしたっけ?似たもの同士っていったから?それとも瞳が綺麗だって言ったからだろうか。それに一日会えなかっただけで寂しいって、どういうこと?まだ一ヶ月とかならわかるけど一日?え?混乱している私を置いてけぼりにアルは話を進めた。

 

「リュシーは?リュシーは昨日何をして過ごしたの?それに、その頬の傷説明して?」


 なぜかアルからドス黒い物が見える。どうしてだろう。転んだって嘘は多分通用しないよね。うん、正直に話そう。


「昨日は魔法の練習をしようと思いまして、外に出たら公爵夫人が私の元にいらっしゃいました」

「それで、フロライン公爵夫人ごときが僕の婚約者に傷をつけた、と」


 うん?「フロライン公爵夫人ごとき」?それに僕の婚約者?ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえた。それにこのまま放置すると王子の権限を使って、公爵夫人を潰しにかかってきそうだからちょっと止めよう。


「それはそうなのですが、この件に関してはしっかり閣下が判断をなさってくださると思うのでアルは力添えをしなくて大丈夫です。それよりももっと楽しいことをしましょう。昨日たくさん考えてきてくれたのでしょう?」


 そういうと「それもそうだね」とドス黒いものをしまってくれた。


「と、その前に。リュシーその傷に少し触れてもいい?」


 あまり未婚の男女が肌を触れ合うのは良しとされないのだが、廊下には護衛がいるけどこの部屋には私たちしかいないしまぁいいだろうと思い頷いた。


「とても痛そうだね」


 と、傷を撫でるようにアルは指を添えた。少しピリッとした痛みを感じた。


「あ、ごめん、痛いよね」


 痛みを感じ目を閉じた私を心配してくれた。ありがたいけれど心配するのであれば手を離して欲しいな。それに同じソファに座ってるのも恥ずかしいし、どんどん頬に熱が集まっていくのを感じるから早く逃げたい。


「すぐ終わらすから」


 そう呟いてアルは目を閉じた。アルの手からすごく暖かい光が発生した。


「今のは?」

  

 その光はすぐに収まったが混乱を隠しきれない私は、アルにそう尋ねた。


「ちょっとした回復魔法だよ。これから街へ行く手筈を整えているのに、傷を抱えたままじゃ楽しめないと思って」


 回復魔法!?そんなのこんな子供に扱える魔法じゃない。それに万が一でもこんな魔法子供が使えたとしても魂まで持ってかれるのがオチだよ?それなのにアルはケロッとしてそこに立っている。もしかして、私が知らなかっただけでアルは賢者に匹敵するほどの魔法の使い手なのでは?回復魔法なんて学園ですら習わないものだ。私は、特別授業をしてもらっていたから知っていたけれど。なんで知っているの?そう聞きたかったけれど、回復魔法のことなんて6歳令嬢が知っているはずない。だから知らないふりをしなければ。


「回復魔法?よくわからないけれど傷を治してくださりありがとうございます。スッキリ痛みは収まりました」

「うん、さ、街に行こ?」


 アルは私の手を握り歩き始める。あ、回復魔法に意識を取られていたけれど、街に行くとか急に言い始めていたんだった。え、まって本当に街に行くの?スタスタと華麗に歩くアルに、連れられ歩く。もうすでに門の前には馬車がいた。本当に手筈が整っていたみたい。


「さ、行こう」


 生まれて初めての街は混乱の中行くことになるのでした。


 

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