第4話 第三王子との出会いII


「僕はアルフレッド・フォン・ブラッドリー。これから婚約者としてよろしくお願いしますね」

 

 私たちは握手を交わした。きっと前よりいい関係にはできるだろう。なぜだかそんな自信が湧いてきた。


「閣下なぜそこで黙っておられるのですか」


 私たちが握手を交わす横で、ずっと鳩が豆鉄砲を喰らったような表情で立っていた閣下。何がしたいんだろう。というかこれ以上その顔で突っ立っていないで欲しい。笑いを堪えるのが大変だから。


「あぁ、あとは婚約者同士に任せる。わたしは忙しいのでな」


 はいはい、わかっていますよ。御三家のうちの当主様ですものね。



「少しお話ししましょうか」


 私たちは向かい合うようにソファに座り話し始めた。


「リュシエンヌ嬢はセルジュ公爵と仲がいいのではないのですか?」


 少しの沈黙の後、アルフレッド王子がそういった。きっと噂でも聞いたのだろう。私の昨日までの行動はかなり有名だったから。「父親の後を引っ付く面倒公女」って。


「噂でもお聞きになりましたか?」

「え」


 そう聞くとアルフレッド王子はいけないことをしたかのような表情になった。別に気になくてもいいのに。

 

「そんなに動揺しないでください別にいいのです。お恥ずかしいことですがずっと閣下の愛が欲しかったんです。少しでも褒められたかった、認められたかった、愛されたかった。ですがもう閣下の愛を望みません。私、愛をくれない親なんて必要ないって気づいてしまったんです。それが私が噂と違う理由です」


 アルフレッド王子が黙り込んでしまった。どうしよう。あ、そうだ話を変えよう。


「こんな話よりもっと楽しい話をしましょう。好きなこととか、好きな食べ物とか。アルフレッド王子殿下は休日にどんなことをして過ごすのが好きですか?」

「僕は……申し訳ないです。どんなことが好きかわからない。リュシエンヌ嬢は?」

「私?私ですか?そう、ですね。うーん、ご、ごめんなさい。私も思いつかないです」


 そうだ。私、休日も両親に認められるためにずっとお稽古や勉学に励んでいた。街に遊びに行くなんてやったことない。


「なんか、似たもの同士ですね私たち」

「似たもの同士?」

「あ、ごめんなさい。不敬でしたよね。アルフレッド王子殿下を私と似ているだなんて」

「いや、大丈夫。確かに僕たち似たもの同士だね。何も好きなことがないってさ」


 そういってアルフレッド王子は笑った。つられて私も笑ってしまった。笑い疲れて私たちは顔を見合わせた。やっぱり、アルフレッド王子の瞳綺麗だな。そうおもったらそれがいつの間にか口に出てしまったらしい。


「いま、なんて言ったの?」


 やばい怒らせてしまっただろうか。


「アルフレッド王子殿下の瞳が綺麗だ、と申しました。不敬でしたら申し訳ありませんでした。今すぐに婚約解消をされても」

「ううん、婚約解消なんてしないよ。今決めた。そっか、この瞳。リュシアンヌ嬢には綺麗に思えるんだね」


 怒らせてしまったと思ったのに、アルフレッド王子殿下はとても笑顔だった。なぜ?


「僕初めてこの瞳が綺麗だって言ってくれる人に出会えたよ。ありがとう」

「どう、いたしまして?」 






 そこから少し時間が経ちもうアルフレッド王子殿下が帰らなければいけない時間になった。


「アルフレッド王子殿下」

「アルです」

「え」

「アル。アルフレッド王子殿下ではなくてアルと呼んで欲しいです」


 アルって多分愛称だよね。愛称って家族や婚姻を結んだ人だけに許す呼び方のはず。それに私がそう呼ぶことを許されたのであれば私もそれ相応のことをしなければ。


「では私のことはリュシーとお呼びください」

 

 そういうと、アルはすごく満足そうな顔をした。


「リュシー、二日後またきます」

「え」

「また会いましょうね」


 うん。愛称を呼ぶことを許されてしまったし、前は次会う約束なんてしなかった。だいぶ気に入られたらしい。




「リュシー、リュシーか」


 私、誰かに愛称を呼んでもらうことが夢だった。誰かの愛称を呼ばせてもらうことも夢だった。だから、アルにアルと呼ぶのを許してもらえたのがとても嬉しくて、アルが私の愛称を呼んでくれるのもとても嬉しかった。 




 その日はなんだか幸せで悪夢を見ることなく眠りにつくことができた。


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