第23話 ライム。
男は本の外で「くそっ!?ライム!?なんだライムは?ブランドとパールと俺の他にライムも外の人間だったのか!?」と驚きを口にする。
イリゾニアに術知識は無かったのに、ライムの行動で転移術、偽装術、排毒術が知れ渡る事になる。
まだ男が口にしていない事で、ライムは未知の術使いだったと知れ渡っただけで済んだが、それでも不思議な力に名前がついてしまう。
「何故ライムはイリゾニアに心情が載った?意味がわからん」
男は気絶していることをいい事に、魔術書に入り魔術の神に状況を説明すると、「二冊目の魔術書を持つ者だろうな。念話術では察知の可能性がある。読心術と伝心術で仲間だと伝えて、そいつの持つ魔術書に入本術を使わせろ。魔術書に入本されれば俺が出向く」と言われた。
男は礼を言ってイリゾニアに戻ると、なんとかアクムーの街に戻り、治療を受けながらデイドリーからの迎えを待っているところだった。
男は情報を整理すると、ライムは地上に転移するとパールを起こす。
パールは目覚めてすぐに驚く顔でライムを見て、「外!?なんで!?カインが!」と訴えかけると、ライムは「安心してくれ。どう言えばいいかわからない。不思議なことが起きて、私達は外にいた。カインの毒も消えたのか息遣いも落ち着いている。とりあえず魔王の追撃がないように、近くの街、アクムーまで行ってデイドリーに迎えを頼もう。船は戻らなければ街に戻る手はずになっている。ブランドの奴がいつ暴れるかわからない。4人旅は危険だ」と言った。
ブランドは聖剣レイザーイに貫かれたまま箱詰めされていた。
箱からはパールとライムに助けを求め、カインに破壊された身体の激痛と、箱の中に詰められた絶望と、エムソーの毒、そしてレイザーイが縫い付ける為に這わせた根が体を侵食する痛みによる怨嗟の声を上げていて、ライムはまだしもパールは気が狂いそうだと泣いていた。
それでもパールは献身的にヒール治療をカインに行ってくれている。
男はパールの休憩時に、代わりにライムが来た瞬間に不思議な力(治癒術)で身体を最低限まで治すと、「ライムさん?」と弱々しく病人のフリをして声をかける。
「カイン!?起きたか!」
パールを呼びに行こうとするライムを止めて、「僕は?ここは?」と白々しい質問をする。
「ここはアクムーの街よ。あの時不思議な光に包まれて私達は外にいたの」
ライムの返答にカインは「そうなんですね。ありがとうございます。倒れた僕は重かったですよね?」と返して照れ笑いをする。
イリゾニアは騙されていて、[勇者カインは昏睡から目覚めた。あまりにも深い傷だったのに起きられたというのは、聖剣レイザーイを振るえた勇者だからかも知れない]と書き記し、逆に[勇者ライムは謎の力を使った。もしかすると彼女は新たな脅威かも知れない。だがまだカインはそのことを知らない]と書いていた。
男は本の外でまだ隠し通せることに頷くと、本の中で「ライムさん」と声をかける。
ライムは「なんだ?パールを呼んでくるぞ?」と言って呆れ顔でカインを見た。
「いえ、先に握手しませんか?」
「なんだ?感謝なんていらないぞ?私は深層水しか取ってきていない」
ライムは照れながら握手をしてきた。
その瞬間、男は伝心術で『驚かないで。君のことを知りたい。口にしないでくれ。念話術はダメだ。読心術を使う』と送ると、一瞬の間の後で「そんな顔をしないでくれ、惚れてしまいそうだ」と言ったライムは、『あなたも術使い?だからレイザーイを振るえたのね?どうすればいいの?』と術で送る。
「ライムさんは魅力的な女性ですよ。僕なんかが想いを寄せたらバチが当たります」
『ここに来ているように、入本術を魔術書に使ってくれ、中で魔術の神に会える。そこで話してくれ、俺も自分の魔術書に入る』
「よく言うよ。君こそ私なんかが勘違いしたらパールに怒られてしまうよ」
『魔術の神?入本術は…やってみる』
「すみませんまだ無理があったようです…。寝ます。パールさんには起きたと言わないでください」
「わかったよ。少し目が開いたとだけ伝えさせてくれ」
ライムが部屋を出ると、すぐにパールが飛び込んできて「カイン!…寝たよね?私起きるの待ってるね。なんかね…。カインを見てると記憶を取り戻さなきゃって思えるんだよ」と声をかけると、ベッドサイドのローチェアで休みながらカインの顔を愛おしそうに見ていた。
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