第14話 神託と補正。

神託の祠に到着すると、神子の少年がカイン達の前に現れて、勇者とのみ話をすると言ってカインとライムを別室に連れて行った。


本来なら魔王の事を話すのだが、神子はカインに「お前の望み通りにはならない」と言った。


それを聞いたライムが「は?」と聞き返すと、神子は「この世界は壊れ始めている」と言う。


「それって魔王の事ですよね?」

「それもある。イリゾニアは正しい筋道を辿り、魔王を殺す必要がある」


「神子様、あなたが何を言いたいのか、僕には分かりかねます。でもブランドが勇者で魔王を倒せるのでしょうか?」

男はあくまでカインとして神子を通してイリゾニアに語りかける。


「あの勇者もこの世界を破壊するもの。だが本来の位置にいる者が不在なのだから、このままやるしかない」

「大丈夫ですか?今もここに来ようとはしていませんよね?僕とライムさんでこの世界を救うのはどうですか?」


「筋道と違ってしまう」

「今のままならどのみち終われませんよ、この状況で筋道に戻れるとでも?」


一瞬の沈黙の中、男と神子は睨み合いに近い状態で見つめ合う。

神子が「…ならどうする?」と聞くと、男は「傀儡で結構」と言ってニヤリと笑う。


「ブランドとパールさんを合流させてくれれば、僕達で魔王を倒します。そして僕は名声なんていらない。ブランドの愛の力で勝ったと喧伝します。それならイリゾニアは最低限のズレのみで、本来の筋道に戻れます」


ライムはずっと黙っている。

黙りながらカインと神子を交互に見て何かを思案している。


「ライムさん。きっと神子様が言いたい事は、ブランドが戦おうとしないでナイメアにいる事や、僕の元に万の魔物が来ている事を言っているんだと思います。僕の願いは、僕自身の手で魔王を倒したいのですが、きっとライムさんにパールさん、ブランドの協力がないと難しいのでしょう」


カインが都合のいい説明をすると、ライムは「よくわからないけど、なんとなくならわかった。3人で、最悪2人で魔王を倒せばいいのよね?カインならやれるわよね?」と聞いてくる。


カインが頷くと、神子が「偽装者よ。ならばその筋道をやり通してくれ。だが、私は意思の一つでしかない。全てを後押しはできない」と言った。


「前よりマシなら構いません。この先の道を示してください」

「復活した5将軍を倒し、魔王の城への道を見つけろ。死の山はとても険しく、人の身では歩けない」


ここはほぼ原作通りだと思っていると、神子は「剛力のサシュは肥沃山の採掘場に、剣才のソシオは聖地カパブリに、闇のスゥと毒のエムソーは海底洞窟に、そして大軍のセウソイは…もう近くに来ている」と言った。

これは原作とは違う。


そもそも5将軍は、それぞれが得意な属性を持つだけだったが、異名も違うし住む場所も違う。


「大軍?近くに?」

ライムが聞き返すと、神子は「ナイメアが無くなれば、勇者は合流するしかなくなる。そして5将軍の1人を倒せる」と言って、「さあ、旅立ってください」と指示を出した。


祠から出ると外で待っていたエドに、「復活した5将軍の1人がナイメアを目指しているそうです。エドさんはデイドリーに戻って、陛下にその事を伝えてください」と指示を出す。


「5将軍ですか!?」

「はい。狙いはブランドとパールさんみたいです。きっとエドさんが言っていた通り、ひとつどころに勇者が長期滞在するのは良くないんだと思います」


男はカインとして、この世界で演じ切る気になっていた。

だからこそカインとしてあり得そうな話をする。


イリゾニアの意思もあるのだろう。

エドは素直に信じると、「ナイメアは無事でしょうか?」と聞いてきた。


「わかりません。ブランドが実力を発揮できれば…、ですね」


エドは唸ると「カインさん、ライムさん、すみません。私は急ぎますので後をお願いします。それでは」と言って駆け出した。

神託の祠からなら、少し危険な野宿にはなるがナイメアを経由するより、デイドリーを直接目指した方が早い。


その後ろ姿を見ながら、ライムは「私達も急ぎましょう」と言って、ナイメアに向かって進み出した。

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