第13話 進まない旅路。

ブランドとパールの冒険は驚くほど話にならなかった。

デイドリーの城下町はブランドの失態を知っているので、街の人たちは塩対応に近かったが、少し離れたナイメアの街では【十万の魔物を勇者が返り討ちにした】とだけ届いていたので、ブランドの活躍を信じてしまっていた。



カインとライムのパーティーには、エドという兵士が監視兼護衛としてついてきていて、ブランドとパールのパーティーにはメイジーという兵士がついてきていた。


本来ならナイメアの先にある神託の祠に赴いて、魔王の城に行くために5将軍を倒す必要がある事と、可能な限りだが5将軍の居場所を聞く事になるのだが、とりあえず本来の筋道通りならばこのナイメアで情報収集をする必要がある。


男はブランドの失態を見ていたので、カインとして情報収集を行い、酒場にいる酔っ払い達から、「探し物か?」、「なら神託の祠にいってみたらどうだ?」と早々に聞き出す。

これでも手間は手間で、さっさと話を終わらせて5将軍を倒して、デイドリーの城に発生する魔法陣で魔王の居城に行ってしまいたかった。


ライムが「神託の祠ね。目的地もよくわからなかったから、とりあえず行きましょう」と言い、男は「ええ、でもブランド達はどうします?」と返しながら商店街の方を見て肩を落とす。

ブランドとパールもナイメアには着いたが、どうやら装備を整えるなんて言い出したようで、カインの報奨金で豪華な装備を買い揃え、十万の魔物を蹴散らした勇者として讃えられていて、情報収集はおろか、何一つ冒険を進めようとしていない。


ライムも肩を落とすと、エドが「…メイジーが居ますから、我々だけでも先に進みませんか?また十万の魔物が襲ってきても、このナイメアには城壁もありませんから耐えきれません。1箇所に留まるのは得策とは言えませんよ」と言って、冒険に出る事を提案する。


男はカインとして、エドの言葉に反応してをして、「確かにそうですね。ですがブランドとパールさんを狙った敵が来たらと思うと…」と言ってため息をつく。


敵に狙われたらひとたまりもない。

そのアピールに、エドは「カインさんの方が狙われやすいから平気ですよ」と言って先に行かせようとする。男はこれもイリゾニアの意思かと思っていると、ライムも「そうね。最悪2人で先に進みましょう」と言ってくるので、断る事なく先に進む事にした。



イリゾニアの外で数行だけだが、先を読む男は「頭痛え。バカじゃねえの?」と漏らす。

それは別行動中のブランド達の記述で、ブランドは娼館に籠り、片っ端から女を抱く。


軽蔑の眼差しでブランドを見るパールに、ブランドが「これも仕方のない事なんだ。夢枕に立った神様が、愛の力で魔王に勝てと言ってきたから愛を広めている。愛の力があればトカゲ騎士にも負けなくなるようだ」と語ると、パールは「…神様が?じゃあ信じるから早く終わらせて魔王を倒しましょうね」と言ってメイジーと宿屋に帰る。


護衛のメイジーは、「パールさん。あの…。本当にいいのですか?」と聞くが、パールは半ばヤケになって、「ブランドは勇者だから信じます」と言う。


口にして始めて心情が載るので、読むとブランドは[カインの奴の報奨金があるから街で女を買うのは当然だぜ]と思っていて、パールは[カインが信じられない以上、もうブランドを信じないと魔王退治は出来ないの。これが正解。正解なの!]と思っていた。


男は妻のいっぱいいっぱいさに、「大丈夫か?」とつい口にしてしまっていた。


ライムとエドを連れた旅は順調で、エドは「私も勇者の仲間として、魔王討伐までお邪魔できそうですね」と軽口を叩く。


そんなエドは弱くなかった。

言い換えるとブランドより強い。

それはある種仕方のない事で、男がカインとして降り立った事でイリゾニアに戦闘力のインフレが発生してしまい、本来旅の序盤であるデイドリー周辺でも、危険な魔物が出現するようになってしまっていた。

それらから人々を守るエド達は自然と強くなっていた。

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