第19話 聖剣レイザーイ。

サンダーボルトで川の魔物が全滅すると、船頭はこれなら接岸出来ると言ってくれて、無事に神殿に着く。

我先に前を走るブランドは、聖剣の台座の前で待つ剣才のソシオを見て卒倒してしまう。

散々カパブリには剣才のソシオがいると言っていたのに、何を聞いていたのかと男は呆れてしまった。


「来たな」と言ってカインを見るソシオ。

男はカインとして「剣才のソシオ!決闘を申し込む!」と声をかける。


ソシオは意外そうに「ほう?お前は魔法使いであろう?」と聞き返してきたが、男は「戦うのはここにいる勇者ブランドだ!」と言った。


カインの言葉に、ブランドは首が千切れそうなくらいブンブンと横に振り乱して、「おい!?何言ってんだ!!」と怒鳴ってくる。


男はブランドを無視して、「ブランドはここに来れば、もう負けないと言っていた!それが真実か、その身をもって知れ!それとも大軍のセウソイが軽んじたブランドに恐怖するか?」と言うと、ソシオは「面白い。ブランドが倒された時、お前が私との対決を受けると言うのなら受けてやろう。この室内では大魔法は使えまい?」と言って、ブランドを無視してカインを見る。


ライムとパールは無謀な賭けだと言ったが、カインは微笑みと共に「大丈夫ですよ」と言った。


カインの目論見は、不思議な力で死なないブランドが、100回に1回でも切り返せればそのうち勝てるというものであったが、イリゾニアはもっとえげつなかった。


ライム達とソシオに睨まれながらブランドが本当に嫌々聖剣レイザーイを手にした瞬間、ブランドの意思を無視してソシオに斬りかかる。

その剣筋は達人のもので、あのトカゲ騎士相手に何も出来なかった男の一撃とは、遠くかけ離れたものだった。


「なに!?」と言って慌てて防ぐソシオ。

それ以上に驚きながら、「怖い!嫌だ!痛いのは嫌だ!」と叫ぶブランド。

そう、役立たずのブランドは、この場では聖剣レイザーイを振るう為の身体でしかなかった。


本の外でそれを見る男は、「おぅおぅ、同情はしないが哀れだな」と思わず言ってしまう。


[聖剣レイザーイは、あまりにも頼りない勇者ブランドの代わりに、その身体を扱う事にした。聖剣レイザーイの一撃は剣才のソシオに迫るが、鍛えていないブランドの身体は一撃で千切れそうになる。骨は軋み、筋は伸び、皮は千切れかける。それでも聖剣レイザーイは、イリゾニアを救う為に勇者ブランドに力を与え続けた]


そう、ブランドは度重なる攻撃を放った事で、全身は内出血で紫色に染まっていた。

攻撃の衝撃で爪は割れて剥がれ落ちている。

どれだけ泣き言を言おうとも、レイザーイは攻撃をやめない。


ソシオも剣才の名に恥じないように、剣を受け止めて奮い続ける。

ブランドはこの戦いのお荷物になっていたが、聖剣レイザーイは傷をものともせずに前に出てソシオに斬りかかり、ソシオも負けじと剣を振るう。


ソシオの攻撃でブランドの身体がどれだけ切断されて、どれだけ痛み、苦しみ、血を失おうが、不思議な力が敗北を許さない。

痛みを伴うワンサイドゲーム。

最後にはソシオを撃破していた。


だがブランドの地獄は終わらなかった。


「無念…。このような負け方をするとは。だが…今ここに魔王様の力で二千の魔物を送り込んで貰った。その…満身創痍で勝てるかな?」

ソシオは最後にそう言うと力尽き倒れた。

確かに神殿の入り口の方がうるさい。

魔物の咆哮や足音が聞こえてくる。


「俺様は限界だ。カイン、ライム、敵を倒してこい!パールはヒールだ!」とブランドは言ったが、聖剣レイザーイはブランドを聖剣に相応しい勇者にする為にも、率先して前に出る。


「待て!やめろ!休ませろ!死んじまう!」


そんなブランドの泣き声は無駄に神殿に響く。


出迎えといってもおかしくない、トカゲ騎士達の一撃を全身で受けるブランド。

槍で腹を貫かれて「ぐぇぇっ!?」と叫ぼうが、聖剣レイザーイとイリゾニアは最適な勝利を目指す。


肉体の損壊が意味を成さない勇者と、肉体さえあれば効力を示す聖剣。

この2つはもう物語公認の不正行為だった。


オークのハンマーが頭に直撃し、首が折れて頭の中身が出ても関係ない。

ブランドであるモノは、ひたすら戦場を駆け巡り魔物を皆殺してしまう。


全てが終わると、ようやくブランドの手を離れた聖剣レイザーイ。

ブランドは瀕死の重体で、痙攣しながらか細い声でパールにヒールを頼む。


パールは化け物の相手をするようにヒールを送るが、敵は次々にくる。

聖剣レイザーイは、敵を察知するとブランドを操り、我先に攻め込んで敵を皆殺してしまう。

その時だけは全身に槍が刺さろうが矢が刺さっていようが、お構いなしに全力疾走をして、余力を残す気もなく剣を振るっていた。


ようやく敵がいなくなり、先程よりも酷い重体のブランドをライムと箱詰めした男は、「約束通り、敵を倒してくれてありがとうございます。ブランド」と言葉を送って蓋をしてしまった。

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