第8話 ブランドの実力。

城を出て街に入る頃には、街の外周にある城壁に設置された物見櫓から、監視をしていた兵士が警鐘を鳴らす。

魔物の襲来だとあわてふためく街の人々に、ブランドが「皆!この勇者ブランドに任せてくれ!」と言うと、あの根拠のない自信を見た人々は、救いを見るようにブランドを見て声援を送る。


「やっぱりものを言うのは人望だよな」と言って、高揚した顔で街を歩くブランドを見て、後ろを歩く男は「ものを言うのは実力だ」と呆れる。


イリゾニアは必死にブランドを取り立てて、贔屓してカインの居場所を奪おうとした。だが既に一度、魔王の軍戦を壊滅させているカインに対する民衆の人気は絶大で、威張ったり余計なアピールをしないが、結果を出すカインにも声援が届く。


声援を受けても無表情のカインに苛立つブランドは、兵達に門を開かせると我先に魔物の群れに飛び込んでいく。


カインは呆れながらも、放置するとどうなるかを見る事にしつつ、兵士に「物見櫓の観測班に魔物の総数を数えさせてください。大体で結構です。千体単位なら誤差にしますが万単位はキチンと把握してください」と指示を出す。

正直そんなに数えられるのかは不明だが、指示を出すと兵士は「わかりました」と返事をした。


男から指示を貰った兵士が、仲間の兵士に指示を出し終わる頃、「おりゃぁぁぁ〜!」と聞こえてきて見ると、ブランドは蜥蜴騎士の群れに斬りかかっていた。

蜥蜴騎士は本来のイリゾニアでは、中盤以降の敵で序盤ではあり得ない敵。


本来のブルガリは蜥蜴騎士を倒せるほど強くなかった。人々を水晶にしてしまう水晶竜を討伐する為に、水晶の谷に行く際、水晶の谷で身体が水晶にならない為の御守りを取りに行く際に、妨害をしてきたのがこの蜥蜴騎士だった。


その時は4人で力を合わせて辛勝したのだが、どうなるのだろうか、ブランドのお手並み拝見だと男は高みの見物をした。



「とぅぐぉぬはふぉん!?」


ブランドは意味不明な悲鳴と共に、城壁まで吹き飛ぶとピクピクと小刻みに震えている。


「なに!?」

「いやぁぁぁぁっ!ブランドさん!!」

「ブランド!?」


イリゾニアの外で読んでいる男は、数行先を見る。


[勇者ブランドは蜥蜴騎士の一撃で即死だった。だがその時不思議なことが起こった。ブランドの心臓は鼓動を再開した。何度停止しても心臓は再び動き出し、ブランドは勇者パールからの治癒魔法を渇望していた]


どうやら、イリゾニアはブランドの退場を認めない。どうやってもブランドとパールの愛の力で、物語を終わらせようとしていることがここからでも読み取れた。


「ご愁傷様だな」

本の外で男は呟く。


本の中でカインをしている男は、実際にブランドを助ける気はあまりなく、魔物の退治を優先することにした。


「パールさん、僕を嫌っていても結構です。敵の気勢が削がれたら、ライムさんとブランドを回収して、治癒魔法を使ってください。ライムさんはパールさんを守りながら、ブランドを回収できるタイミングを伺ってください」


男は指示だけを出すと2歩前に出て、ファイヤーボールとウインドストームで火炎竜巻を起こして魔物を焼き殺していく。

上空の魔物にはウインドカッターで範囲に入るものを確実に切り刻む。


パールは男の指示に従わずに立ち尽くしていたが、ライムから「ボサっとしないで!」と言われて、慌ててライムに魔法支援を行うと、ライムは剣を抜いて前に飛び出した。


ライムはパールを守りつつ、ブランドを救おうと剣を振るうが、そもそも序盤で出てくるような魔物達は既にカインの火炎竜巻で死んでいて、今襲ってくるのは物語中盤以降に出てくる強敵ばかりで苦戦をしている。


この状況に男は、一瞬ライムを見殺してみることも視野に入れてみたが、物語が更に破綻しても困るので、アイスランスの魔法で援護していく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る