第9話 報われない戦い。
戦闘はしばらく続く。
魔物共はイリゾニアの意思を無視して、本能的に近くにいてまだ生きているブランドを狙い殴りつける。
殴られたブランドはその場で絶命するのだが、次の瞬間には「不思議なこと」が起きて助かる。
だが本人には痛みも苦しみもある。
魔物の咆哮に掻き消えるが、必死に何かを言っている。
今も「ゆ………パー……治癒………、ヒー……」と言っていて、それは本の外で読み進めている男目線でわかることで、[勇者ブランドは、何度も不思議なことが起きて蘇生しているが、その度に地獄の苦痛を味わっている。今も本人は「勇者パール、治癒魔法を頼む、ヒールをしてくれ」と言おうとしているが、魔物の咆哮等に阻まれて、仲間たちの元にその声は届かなかった]と書かれている。
「悲惨だな、手足の欠損すら不思議な力で治るのか…、だがタダではない。下手な優遇もない。イリゾニアはブランドとパールの愛の力でハッピーエンドを迎える為だけに、ブランドの奴を生かしている」
読んでいる男はそう呟いて本に戻る。
カインとしている男は、「パールさん!ライムさん!パールさんは門の中に!ライムさん!一度隙を作ります!ブランドを助けて門の中へ!」と指示を出すと、一度大規模の魔法攻撃でブランドの周りにいた魔物達を排除する。
ライムは「感謝する!パール魔法支援!ブーストを使って!」と言って走り出すと、門のところに居たパールが、ライムにブーストの魔法をかけて加速をする。
ブランドは奇跡的に手足は繋がっていたので、ライムが拾って門まで戻ると「回収したぞカイン!」と声をかけてくれる。
「わかりました!索敵班!魔物の規模と範囲を教えてください!」
デイドリーの街を覆う城壁の上に立つ兵士達が、「十万はいると思います!」、「それらが見渡す範囲、四方八方にいます!地平線まで魔物で埋め尽くされています!」とカインに言葉を返す。
本来なら絶望的状況だが、兵達もカインも落ち着いていて、カインは「今から前方に落雷を起こします!あなたの言う、地平線まで行った所で声をかけてください!」と言うと、「サンダーボルト!」と唱えてカインの前から徐々に地平線に向けて落雷が起きる。
暫くして「辿り着きました!」と聞こえてくると、カインは「勝負に出ます。門番は僕が戻ったら門を閉じてください!」と言い、「風の大魔法!ウインドストーム!サンダーボルト!ウインドカッター!地の大魔法アースドラゴン!」と唱えると、カインは走って門に戻る。
「索敵班!すみませんが魔物達の状況を逃さず見てください!」
「わかりました!」
それはある種の地獄絵図だった。デイドリーの街、その中心の城を起点とするように正円状に発生した竜巻は、地平線に聳え立つ風の壁になり、徐々にデイドリーに向けて範囲を狭めていく。
竜巻に飲まれた魔物達は、身体を強風によって千切れるものや、魔物同士が衝突して命を落とすものもいる。
そして飛行可能な魔物は飛んで逃げようとするが、絶え間なく発生する落雷と風の刃がそれを許さずに迎撃し、地表に落ちるとデイドリーから竜巻に向けて走る、2匹の土竜に食い殺されていく。
それは戦闘ではなく掃除や始末と呼ぶべき状況で、魔物達は手も足も出ずにカインによって殺されていた。
男は規模に合わせて毎回少しだけうわ被せるようにしていた。
イリゾニアはそんな男の策にハマり、「このくらいなら今度こそ勝てるだろう」と魔物を用意するが、男は用意された魔物達を蹴散らしていた。
アースドラゴンの2匹同時使用は仕方なく用意したもので、今までは1匹で済んでいたのだが、今回はデイドリーの被害を出すわけにはいかなかったので無理をしていた。
街からは竜巻や落雷、アースドラゴンが走る度に起きる地響きの大災害にも関わらず、カインを讃える声が聞こえてくる。
当のカイン…男からしたら興味のない話だった。
デイドリー城には、この後で魔王の城に向かう魔法陣が地下の更に地下から出てくるので、ここで国が滅びると兵士達が掘り進めてくれる魔法陣を自分で掘る事になるから、損得勘定で守ったに過ぎなかった。
歓声の中、魔法の使いすぎで座り込むカイン。
壁に寄りかかりながら、索敵班から全滅の報告があるまで魔法を使い続ける必要がある。
心臓は早鐘のように鼓動を続けていて、やめてしまい倒れてしまいたくなるが、守るべき妻が目の前にいる。
男は妻の為にと命を張り続けるが、その妻は男を忌むべき存在と睨みつけてきていた。
「報われんな」
本の外で読んでいた男はうっすらと泣いていた。
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