第5話 金のチカラ。
周囲からは驚きの声の他に、「悪魔だ」なんて声も聞こえてくる。
この状況でよく言ったものだと男は呆れるが、今やる事は目の前にいる数万の魔物を倒して今この場を切り抜ける事だった。
当然数万も魔物がいれば、火に強い個体も現れる。
火炎竜巻を突破してきた魔物達を見て、男は「火炎竜巻は現状維持!アースボール!アースブロック!」と唱えて、火炎竜巻に岩のような塊を打ち込むと、火炎竜巻を越えようとした個体に次々と直撃して倒していく。
今度は超上空から落ちてこようとする個体。鳥型の魔物や、半分鳥のハーピー。鳥型の魔物と連携を取るゴブリングライダーが攻め込んでくるが、男はニヤリと笑うと「かかったな馬鹿どもが!ウインドカッター!ウインドブレイド!」と言って上空の魔物を全て切り刻み、血の雨を降らせる。
この後は最早作業だった。
地中から襲おうとした魔物達は、土の大魔法アースドラゴンによって地中から出る事なく食い殺され、上空も地表も突破出来ずにいたが、魔物の群れは愚かにも最後の1匹まで勇者カインを殺そうと迫ってきていた。
男は路線変更をする事にした。
ハーピーやゴブリングライダーの血を浴びて、真っ赤に染まる顔のまま、父母や村人を見て「倒しましたよ」と丁寧に話しかける。
あの戦闘力の前に、男を悪く言えるものは居なかった。
言えて主婦達が、「なんて残酷な」、「人の心はないの?」とか言っていたが、男はウインドカッターで女の毛先を切断して、「何か?僕は万の魔物を倒しました。感謝よりも陰口ですか?キチンとこっちに来て、僕の目を見ながら言ってください」と言うと、女は真っ青な顔で首を横に振ってへたり込んだ。
男はカインとして生き残るために、このイリゾニアを滅茶苦茶にする事にした。
そしてイリゾニアに聞こえるように、「パールに何かしてみろ、更に物語を破綻させる」と脅しをかける。
男はまず最初に、村長に対して自分が一番だと言った。
若干6歳の子供にここまで言われて面白くなかったが、自身の周囲にファイヤーボール、アースボール、アイスランスを浮かべて「どれがいいですか?……選べ」と脅して村を支配すると、ドン引きする両親に「お父さん、お母さん、僕の両親の貴方達は僕の次に偉いんです。コイツらの事を、ある程度好きにして良いですよ」と言うと、両親はすぐに豹変した。
父親は気に食わない村人を殴ったり、他人の妻を心のままに襲ったりするようになり、母親は畑仕事なんかを周りの奴らにやらせる。
もうそこに[温かみのある村]や、[名産品はないが人情溢れる村]なんて言葉は無くなっていた。
「何人かで王都まで行って、兵士に僕の活躍を伝えてきてください。あとは魔物の素材を売ってきてください」
この命令で十数人の村人が王都に出向く。
すぐに魔物の素材の回収と確認に兵士がやってくるが、すぐにと言っても2ヶ月あり、2ヶ月の間に村人数人が命を落としていた。
イリゾニアは、物語を破綻させようとするカインの謀殺を諦めていなかった。
調理担当の村人が毒殺しようとしたが、術で毒を見破った男は、「毒見してください。僕の目の前で食べるか、食べずに旦那さんが殺されるか選んでください」と言って迫り、調理担当は服毒死していた。
男はイリゾニアの外に出るとその場所を読む。
「悪魔となった勇者カインを殺すしかなかった。1人の女がカインの好物に毒を混ぜた。だがそのとき不思議なことが起こった。カインは毒を見破り、女に毒味を命じた。その姿は正に悪魔だった]
男はここで、どうやらイリゾニアには術知識が存在しない為に、【不思議な力】で解釈をして物語を進めるしかない様子だった事を理解する。
そしてその間もカイン謀殺は続く。
目を離すとカインは死にかけるので、男はすぐにイリゾニアに戻り、不思議なことで奇跡の復活を遂げると、謀殺を行った者を血祭りに上げる。
2ヶ月後、魔物の死骸を見た兵士はカインの戦闘力に感嘆し、報奨金を与え、魔物の素材を換金してくれた。
男はここまでの間に殺されかけたこともあって、イリゾニアに対して喧嘩を仕掛ける。
「このお金は僕が稼いだものですが、半分はこの村で使いましょう。村の名をカインに変更して、皆で裕福な暮らしをしてください。その代わり僕に逆らうと殺します」
村人達はイリゾニアの意思を跳ね除ける勢いで男に従う。
金で村人の心を汚してでも生き延びて、魔王を倒し妻を取り戻す。
その事のみに注力していた。
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